使いやすさ向上のための取り組み(1)

1997年9月2日

今回のテーマは「使いやすさ向上のための取り組み」ですが、今回は「使いやすさを向上させるにはどうすればよいか」という大きなテーマについて論ずるのではなく、このサイトによりふさわしい、マニュアル制作者が商品の使いやすさを向上させるためにできること/できないことについて考えてみたいと思います。

使いやすさ向上といっても. . .

一言で「マニュアル制作者が使いやすさに貢献する」といっても、当研究所としては次の2つの面を分けて考えたいと思います。混乱を防ぐ意味でも最初に挙げておきましょう。

前者は当然として、後者のような取り組みも必要になってくると思います。
特にソフトウェアの分野では「インターフェースはインターフェース担当者、マニュアルはマニュアル担当者」といった厳密な職種分担がかえって取り扱い情報の分散を招き、ユーザーに一貫性を提示できないことがあるようにすら思えます。
それに加えてマイクロソフト社のInternet Explorer 4.0などが正式出荷された日には、取り扱い情報そのものが(メーカーがカスタマイズできるアクティブデスクトップのHTMLとして)ハードウェア出荷時に組み込まれてくることが予想されます。このような状況では、マニュアル制作者がハードウェアの設計過程から、広い意味でのドキュメンテーション全体をサポートしたほうが好ましいように思えます。

今回はこのような細かい話は置いておき、前述した2点について、全体を俯瞰する考察をしてみましょう。

マニュアルによって製品の使いやすさをサポートする

非常に困ったことなのですが「マニュアルさえ良ければ、多少製品の使いやすさに難があっても何とかなる」と思っている設計者はいまだに結構な数を誇っているようです。「これ○○が××なんだけどさー、マニュアルで何とかしてくんない?」と何度言われたことでしょう(怒)。

彼らはどうしようもない製品のマニュアルはどうしようもなくなるという真理を理解できない困ったちゃんです(もっともこの逆は成り立ちません=素晴らしい製品のマニュアルが、どうしようもないこともあります。これはマニュアル制作者側の落ち度であり、今回のテーマとは別の話です)。

ではなぜ、どうしようもない製品のマニュアルはどうしようもなくなってしまうのでしょうか?
当研究所としては、どうしようもない製品が、操作仕様が一貫していない操作仕様が洗練されていない特殊な制限要因が多いというマニュアル制作者泣かせの条件を満たしているからではないかと考えます。このような製品はたいていギリギリまで操作仕様が確定せず、変更が多いのが常です。
したがって、以下の事態を来たすことになります。

要するに「どうしようもない製品」の特徴はすべて、「綿密な構成のもとに、操作のスムーズな流れを重視した、わかりやすいマニュアル」を阻害する要因となるのです。
こうした製品のマニュアルは、どう頑張ってみても、もともとの操作仕様の素性の悪さをカバーすることはできません。軍事作戦でよく言われることですが、戦略の失敗(=もともとの操作仕様の欠陥)を戦術(マニュアルによる小手先の弁解)で取り返すことはできないのです。
とはいえ、欠点をすべてカバーすることができなくても、カバーする努力をしなければならないことは言うまでもありません。

設計プロセスに積極的に関与する努力をしてみる

どうしようもない製品のマニュアルはどうしようもなくなってしまう理由を今まで見てきましたが、ここで視点を変えてみましょう。
そもそも、マニュアル制作者は製品仕様をそのままなぞるばかりでよいのでしょうか?

マニュアルを制作する過程で製品の操作仕様の問題が明らかになった場合、その問題を設計者にフィードバックし、ともによりよい製品を作るための努力をしたほうが良いのではないでしょうか?
何と言っても、マニュアル制作者は最初のユーザーなのです。
マニュアル制作者にはマニュアル制作者なりの「操作仕様を見る目」があるはずです。別に設計者と戦う必要はありません。ともに製品を改善する努力をすればよいのです。
ま、そうはいっても現実は厳しいものがあるのですが. . . 。

どうやって設計者に働きかければよいか、そのためにマニュアル制作者に要求されるスキルとはどういったものか、という点については、次回にじっくり考察していきたいと思います。

いかがでしたか?

今回は「使いやすさを向上させるためにできること」について、マニュアル制作者の立場から考えてみました。次回は、具体的に「マニュアル制作者が設計プロセスにどう関与するべきか」について考えてみたいと思います。このあたりのテーマは、来たる9/4、5の両日に開催されるTCシンポジウム(日本テクニカルコミュニケーター協会主催)のパネルディスカッションでも扱われるようですので、興味のあるかたはそちらに参加されることをおすすめします。

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