次世代HIを考える(GUI再考)

1998年7月7日

最近では、Microsoft社がパソコンの次世代HI(Human Interface)として、3D化したGUI(Graphical User Interface)を提唱したり、Intel社が音声認識の重要性を強調したりしていますが、これから(特にパソコンの)インターフェースはどういう方向で発展していくのでしょうか?

次世代インターフェースについて検討するための導入として、まず今回はCUI(Character-based User Interface)のコマンドラインの世界からGUI(Graphical User Interface)のデスクトップメタファーの世界への移行に、いかなる意味があったのかを考えてみたいと思います。

GUIへの移行によってもたらされたもの

GUIの採用によって、ユーザーがパソコンに親近感を感じを与えることに成功し、それによってユーザーの裾野が広がったいうことがよくいわれます。

しかし、CUIからGUIへの移行の真の意義は、ユーザーが記憶しなければならない情報量を極端に減らすことに成功したことにあります。パソコンを使用するために覚えなければならない情報量が大幅に削減された、つまりユーザーの負荷が緩和されたため、ユーザーの裾野が広がったのです。

どういうことかというと、CUI上では、ユーザーは自分のしたい操作を実行するためのコマンドを、基本的に(記憶するなりメモ書きして記録するなりして)すべてユーザーの側が保持しておかなければなりません。特にその点に配慮した設計がなされていない限り、ユーザー伝達しなければならない情報は、ユーザーがあらかじめ、すべて、正確に用意しておかなければならないのです。

それに対して、GUIはメニューシステムを採用しているため、ユーザーは自分で何をしたいかさえ分かっていれば、必要なコマンドをメニューから選ぶだけですみます。その際に正確な記憶や記録を要求されることはありません。なぜなら、使用できるコマンドの情報は、パソコンがメニューという形で提供されているからです。GUIの特徴でもあるデスクトップとアイコンというメタファー表現自体にも、ユーザーに情報を提供する働きがあることはいうまでもありません。

インターフェース自体があらかじめユーザーに情報を与えるように設計されているため、ユーザーは与えられた情報の中から自分の目的に合わせた操作を選択するだけで、目的を達成できるのです。

GUIの欠点

しかし、GUIにも弱点はあります。

それは、メニューシステムやデスクトップメタファーを採用することによって必然的にもたらされる、操作の煩雑性です。特に最近のソフトウェアは肥大傾向にあるため、メニューコマンド数の増加、メニューシステムに加え、各種ボタンバーやツールパレットの氾濫が続いています。メニューコマンドも階層がどんどん深くなり、深い階層のコマンドを選んでから、さらにダイアログボックスで設定を行う場合もよくあります。

パワーユーザーのように、自分のしたいことを正確に理解し、記憶しているユーザーにとって、ここまで肥大してしまったGUIは煩雑なことこの上ありません。CUIを利用したほうが、自分の目的をより速く、簡単に達成できると考えるユーザーも数多くいます。

また、初心者や、たまにしかマシンを使用しないユーザーを考えてみましょう。このようなユーザー層にとっては、最近の多機能ソフトウェアのメニューコマンド数の多さが精神的な圧迫となり、円滑な操作を疎外していることは十分に考えられます。数多くのメニューやコマンドの中から、自分の目的を達成するためにはどれを選べばよいのかで詰まってしまったとしても不思議ではありません。つまり、特定の場面においてユーザーが実現可能な選択肢の数が、このユーザー層の許容範囲を超えているというになります。

選択することで操作できるインターフェースは確かに素晴らしいシステムなのですが、選択肢があまりにも多くなると、それ自体が操作の疎外要因となってしまうことも否定できません。GUI導入当初には考えられもしなかった、多すぎる選択肢がユーザーの正常な選択能力を奪うという事態が起こっているのです。

これらの問題を緩和するために現在のGUIが採用しているのが、キーコンビネーションによるショートカット状況依存メニューであるといえるでしょう。自分の目的を正確に理解しているパワーユーザーはショートカットを利用し、目的をより速く達成できるようできます。初心者ユーザーは選択したオブジェクトをクリックして表示される状況依存メニューを利用することで、メニュー階層の煩雑さから逃れて、自分のしたい操作を実行できます。

入力デバイスから見たインターフェース

ところでCUIとGUIへの移行を語るときは、入力デバイスに革新があったことを忘れてはなりません。
ご存じの通り、GUIを使いこなすにはマウスが必須条件と言えるでしょう。GUIのためにはマウスが必要であるというよりも、入力デバイスとしてのマウスが存在したからこそGUIが成立しているとすらいえるかもしれません。
CUIは基本的にコマンドラインインターフェースですので、入力デバイスはキーボードだけで十分です。DOS環境では疑似GUIを採用したソフトウェアもありましたが、そうしたソフトウェアはキーボードで十分操作できるよう設計されているものです。
しかし、本当のGUIをキーボードだけで操作するには、かなりの努力が必要です。マウスなしで日常行っている操作をどれだけできるか、試してみるのも面白いでしょう。

では何故こうなるのでしょうか?
その答えとして、CUIは文字列内の前後の移動という1次元的な動きを前提とするのに対して、GUIは2次元的なスムーズな動きを前提としているからである、ということが考えられます。
確かにCUI上でも、2次元的な動きが必要とされる場面もあります。しかし、その動きはカーソルキーだけで十分に制御できる場合が多いでしょう。なぜなら、そういう思想でインターフェース、そしてその内部で動作するソフトウェアが設計されているからです。
しかし、X軸、Y軸の移動情報とともに移動速度も検出し、ポインタの動作として反映させるという、GUIで要求される2次元的な動きは、カーソルキーではとても代用できるものではありません。

そうしてみると、ユーザーが実行できる操作を(2次元である)画面上の情報として提示するインターフェースには、2次元的な動きを取り込むことのできる入力デバイス(マウス、トラックパッドなど)が適当である、ということになります。まあ、あたりまえの結論ですね。

さて、ここまでの検討でお気付きになられたかたも多いかと思います。
実は、あるインターフェースシステムで「何か」を実現するためには、そのために最適な入力デバイスを用いなければならないのです。インターフェースシステムの思想と、その思想を実現するための入力デバイスは不可分なのです。
CUIにはキーボード、GUIにはマウス。ユーザーの記憶にかける負荷を軽減して使いやすさを向上させることを狙ったGUIは、メニューシステムとメタファーを効果的に使用した画面構成、そしてそれをサポートする入力デバイスによって成功をおさめました。
では、次のインターフェースシステムは何を実現しようとしているのでしょうか?また、メーカーの意図とは別に、ユーザーにとってインターフェースシステムで実現してほしいものとは何でしょうか?
そしてそのインターフェースシステムを可能とするための入力デバイスは、いったいどういったものになるのでしょうか?

次回は次世代インターフェースとして名のあがっている、3Dと音声認識について考えてみましょう。これらは別に新しいインターフェースシステムではない、というのが当研究所の見解ですが、詳しくは次回をお楽しみに。

「情報大工のひとりごと」に掲載する内容にしてはかなりまとまったものとなったため、今回は当初の予定の「全体の説明と個別の説明をどう調和させれば良いのか」をとばして次世代HI論の序章を展開しました。次回も次世代HI論を続けたいと思います。

このテーマに関しては、基本的に「情報大工のひとりごと」に掲載したものを加筆修正するという形を取るつもりですので、「情報大工のひとりごと」に掲載した段階でご意見、ご感想などいただければ幸いです。

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