操作手順を重視した外部仕様設計
1999年5月17日
仕様書上ではきれいに見えるけれども、マニュアル制作を始めてみると、実際の操作手順のひどさに閉口してしまうような商品は数多くあります。
今回は操作仕様を設計する際の注意点について、マニュアル制作者側からのアドバイスをまとめてみたいと思います。
「仕様書では完璧なんだけどなあ. . . 」を避けるために
仕様書はエンジニアリングの観点(機能やデバイス単位での記述)でまとめられるのに対して、マニュアルはユーザーの観点(できること、やりたいこと)でまとめられます。そのため、マニュアル制作を進めていると、仕様書上では見えなかったアラが明らかになってくるということが多々あります。
例えば次のような問題は、マニュアル制作時に発覚することが多いと言えるでしょう。
- 似たような機能であるにも関わらず、操作手順が異なる
ユーザーの目的という感覚からすると同じような機能でも、手順が全然違うことがあります(例:一方は直接操作でできるのに、もう一方はメニュー操作が必要)。
近似する機能は手順も近似させることで、ユーザーの学習効果も期待できるはずなのですが . . . 。
- 目的を達成するための手順が多すぎる
普通は多くて5〜7手順までとされています。
「取り込んだ画像ファイルを別の書類に貼り込む」というような複数の目的から構成される手順ならともかく、単一の目的のための操作で10を越える手順が必要なものには、重大な問題があるように思えます。
- 操作途中での分岐が多すぎる
操作の柔軟性と分岐が多いことは別であることに注意する必要があります。操作手順中での分岐が多いと、手順が進むにつれて当初の操作目的が発散してしまいがちになります(異なる目的の操作をマニュアルの1見出しにすることにも問題がありますね)。
- ダイアログボックスに依存しすぎている
何かやるごとにダイアログボックスが出てきて. . . というのは設計する方は楽なのかもしれませんが、説明するのは面倒なモノです(苦笑)。
- モードに依存しすぎている
操作前に現状のモードを確認しなければならないような手順(「〜であることを確認してから、〜ボタンを押す」の類)が多く使われるのは、問題だということです。詳しくは「状況依存のワナ」をご覧ください。
こういった問題は、操作手順やインターフェース部分の設計が、原理的な設計概念モデルを作り上げたあとに始まることに原因があります。画面デザインを先に決めてから操作手順を決めるという、現在のソフトウェアによく見られる設計手法でも同じことです。
使いやすい商品を設計するためには、まず何よりもユーザーの観点に立った操作仕様の設計が必要とされるのです。
設計者にあらかじめ検討しておいて欲しいこと
では、どのように設計を進めて行くべきなのでしょうか?
当研究所は、実際の実装に先立って以下の作業を行うことで、ある程度の問題は解消されるのではないかと考えます。
- 仕様(できること)を決定する
具体的にユーザーにできることは何かという、製品の機能を明確にする作業です。
これはシステム的な要求仕様ということではなく、あくまでユーザーができることを明確に列挙する作業であることに注意する必要があります。
もちろん具体的に何をできるようにするかの判断にあたっては、仕様決定に先立ってマーケットの要求やユーザー調査の結果を参考にする必要があることは言うまでもありません。
- 目的ごとに機能をグルーピングする
1.で列挙した「できること」をユーザーの操作目的の近似性を元にグルーピングします(例:通常の再生、プログラム再生、スライドショー再生を「再生系」として操作性の統一を図る)。
グルーピングにあたっては、エンジニア的な視点から行わないように注意してください。エンジニア的な視点では、操作目的ではなく「内部動作の近似」「操作に使用するデバイス」といった基準でグルーピングしてしまうことにつながります。
- 各機能に必要な操作を列挙する
1.で列挙した「できること」に必要な手順を検討します。
ここでは「〜ボタンを押す」などと言った具体的な手順ではなく、「再生したい曲を指定する」「再生を始める」といった、各操作の(内容ではなく)目的レベルでの手順を検討してください。
設計者の方には、「あるタスクを実行させるために、ユーザーに指定してもらいたいパラメーターを順番に列挙せよ」と言い換えたほうがわかりやすいかもしれません。
また、2.でグルーピングした「できること」同士は、それぞれ似たような手順を設定することを忘れないようにしてください。つまり、操作目的が近いものは、操作内容的にも近いものにしなければならないということです。
- 機能制限を明確にする
操作仕様上でその制限をユーザーに自然に伝達できるようにするために、システム的な制限事項や機能制限に関しては、この時点であらかじめ明確にしておく必要があります。
実際問題、マニュアルを制作している途中になって「実はあれができない、これができない」という話が多すぎます。こういった制限はあとから警告音やメッセージを出してごまかす(インターフェース上の対策)か、ご注意文を追加してごまかす(マニュアル上の対策)かするしかありません。
制限を具体的な手順を設計する前の段階で明確にしておけば、たとえ制限は解消できないにしても、ユーザーに不自由を感じさせない操作手順を構築することはできるのではないでしょうか。
ここまでの作業を行った上ではじめて、それらの手順を現実のものとするための設計に入ります。先に検討した論理的なレベルの手順を元にして、必要なボタンの数やその機能、実際の配置といったことを検討することになるのです。
どんな場合でも基本的な考えかたは不変
以上のような過程で操作手順を設計することで、仕様書上のわかりやすさではなく、実際のユーザーの操作場面でのわかりやすさを(ある程度)実現できるのではないかと考えます。もちろんこの方法が万能というわけではありませんし、まだまだ熟成が必要であることも自明です。
また、操作手順の設計にあたっては、デザイナーによる斬新なコンセプトやメタファーデザインが先に存在し、それに合わせて手順を構成するというような場合もあります。完成コンセプトが先に存在するようなものの場合には、この設計の方法には手直しが必要になるでしょう。
しかし、この場合でも今まで提示してきたような「ユーザーの実際の操作を中心にして仕様を決定する」という考え方が無意味であることはあり得ません。従って、どのような商品を設計する場合でも、もっと操作手順を重視した仕様設計を望みたいものです。
いかがでしたか?
細かく見ていくといろいろとアラがあるかと思いますが、日頃のマニュアル制作の過程で気付いた、わかりやすい操作手順を実現するための素案を提示してみました。実際にわかりやすい操作手順を設計するためのノウハウなどは各社の機密事項となっているでしょうが、この素案に対してお気づきの点などありましたら、どうぞお気軽にご意見をお寄せいただければと思います。