マニュアルの質を評価する内部基準を持っていない組織は、ユーザーからのフィードバックを評価としてそのまま受け入れる傾向にあるようです。もちろんマニュアル制作やWebサイト構築のようなコミュニケーションを根底とする業務において、フィードバックの価値は何物にも代え難いものがあります。ですが、フィードバックがどのような経緯で、どのようなユーザーから、どれほど発生しているのか審査せずにそのまま受け入れてしまうことほど無駄なことはありません。フィードバックを重要視することと、フィードバックをそのまま受け入れることはまったく異なるのです。
全方向からのフィードバックをそのまま受け入れるモノ作りは、個性を殺す方向に進みます。いわゆる80点主義という考え方で、マニュアルのような特定層のユーザーに限定しないことが求められる情報提供には、必然的に付随するものです。しかし、そろそろこの80点主義から脱却して、顔の見えるユーザーに対して満点を付けてもらえるような方向に向かうべきではないでしょうか。フィードバックに対して、「それは違う」と言わなければならないときは、はっきりそのように言うべきなのです。これはマニュアルだけの問題ではなく、最近のモノ作り全般にも言えることです。
現在の消費不況の理由はいろいろありますが、どこを見ても無個性な80点主義商品があふれかえっている状況も一役買っているものと思われます。メーカーの企画担当者として、大当たりか大ハズレのどちらかしかない博打を打ちたくないことはわかります。過去の商品でのフィードバックをまじめに反映して、より欠点の少ない商品に仕上げたいというのもわかります。サポートコストも低減できるでしょうし。ですが、そのようなモノ作りが魅力ある商品につながらないのでは、まったく意味がないのです。そろいもそろって同じ市場に同じような製品を投入して、売れ行きが悪いなんて言っているようでは世話はありません。
NECがPC事業に関してシェア重視よりもリピート購入(率)重視に重点を移していくという報道がありましたが、これも同じ次元の話でしょう。これは広く浅くよりも、多少狭くても、より深くユーザーとのコミュニケーションを取っていこうとする意思表明に他なりません。そうすると自分たちだけが提供できる価値とは何か?というメーカーの根本問題に立ち返らざるを得なくなりますし、自分たちの哲学とユーザーからのフィードバックを、より高い次元でバランスを取るための能力も要求されます。この辺の対策も含めて、脱80点主義を目指すNECの挑戦を見守りたいと思います。