「書評」記事の一覧
かなり以前に読了したものの紹介を躊躇した、バーンド・H・シュミット 著『経験価値マーケティング』です。「経験」という概念を鍵とした書籍では、以前「「ユーザー体験」という価値 」で取り上げた『経験経済 エクスペリエンス・エコノミー』と現時点で双璧をなしています。
基本的には、「F&B(Feature&Benefit)、つまり特性と便益を基づいた製品作り、マーケティングの限界が現在見えてきている。これを乗り越えるのは、消費者が製品なりサービスなりとの関係を通して何を経験するのかという、経験価値に注目する必要があるのではないか」というのが著者の主張になります。要するに、カタログスペックでライバルを凌駕することが販売にそのまま結びついた時代はもう終わり、ということです。
本書では、経験価値の種類としてSENSE(感覚)やFEEL(情緒)、THINK(創造・認知)、ACT(肉体、ライフスタイル)そしてRELATE(準拠集団や分化との関連)という5つのカテゴリーを提唱して、具体的な事例分析や評価を行っています(最初に「紹介すべきかどうか悩んだ」というのは、事例が牽強附会なんじゃないの?とか、その事例はイタすぎません?というのが結構あったからなのですが . . . )。
とりあえず、経験価値という概念について興味をお持ちのかたにはお勧めといえるでしょう。(ISBN4-478-50172-6、ダイヤモンド社、2200円+消費税、amazon.co.jp)。
本日ご紹介するのは、トーマス・H・ダベンポート/ローレンス・プルサック 著「ワーキング・ナレッジ − 『知』を活かす経営」です。
現在出回っているナレッジマネジメント関連の書籍は、どうも内容が薄かったり特定の1企業の運用ケースにとらわれすぎているように思ったことはありませんか? この書籍は知識とデータ、情報との違いといった概念的な話から、知識の形式化や知識移転のプロセス、そしてナレッジマネジメントのための組織体制や支援技術といった実務的な話に至るまで、ナレッジマネジメントの幅広いポイントを押さえています。
ナレッジマネジメント=ITという誤った認識がなかなか払拭できない状況はしばらく続きそうですが、こうした良書が数多く出回ることで、組織のトップだけでなく現場レベルでも質の高い議論が進むことを期待したいものです。胡散臭そうな書籍が多く出回っているこの分野の中で、非常にまともな入門書と言えるでしょう。(ISBN4-8201-1697-5、生産性出版、2800円+消費税、amazon.co.jp)
本日ご紹介するのは、堀 栄三 著「大本営参謀の情報戦記 − 情報なき国家の悲劇」です。戦争末期に情報参謀として米軍の作戦行動を次々に読み当てたことから「マッカーサー参謀」との異名を取った著者が、「情報を収集し、判断するとはどういうことか」について自らの豊富な経験をまとめたものです。
情報(information)というよりも諜報(intelligence)的な話が多く、戦記に詳しくない方には多少取っつきにくいかもしれません。ですが、著者自らがまえがきで「企業でも、政治でも、社会生活の中でも情報がきわめて重要な役割を占めている今日〜」と記している通り、本書の内容は軍事だけでなく、広く社会一般に対して大いに価値があるといえます。
実際に「個々の情報はつかんでいたのに問題の全体を予測できず、あとで地団駄を踏むことになった」とか「将来の技術動向はこうなると情報を入れておいたのに、意志決定時にまったく判断材料にされなかった(で、案の定失敗した)」などという苦い経験をお持ちのかたには、特におすすめです。安価な文庫本ですので、多くのかたに読んでいただければと思います。(ISBN4-16-727402-7、文春文庫476円+消費税、amazon.co.jp)
本日ご紹介するのは(発売からかなり間が空いているので何か今更の感もありますが)、ヤコブ・ニールセン著「ユーザビリティエンジニアリング原論 - ユーザーのためのインターフェースデザイン」です。
ユーザービリティエンジニアリングの第一人者であり、Alertbox: Jakob Nielsen's Column on Web Usabilityでも有名なヤコブ・ニールセン氏が、ユーザービリティエンジニアリングという分野についてまとめた入門書です。入門書とはいえ、実際の評価手法や問題点だけでなく、本格的なユーザビリティテストを行えない場合のための簡易評価指針に至るまで、幅広くしかも詳細に解説されています。
Webデザイン関係のメーリングリストでは、Webデザイナーが読むべき書籍として必ず名前があがるほどメジャーな書籍です。Webデザイナーだけでなく、エンジニアやインターフェース設計者、そして電子マニュアル化が猛烈な勢いで進行するマニュアル業界関係者にも必読の書といえるでしょう。(ISBN4-8101-9009-9、トッパン発行3500円+消費税)
本日ご紹介するのは、黒須 正明・伊藤 昌子・時津 倫子著「ユーザ工学入門 - 使い勝手を考える・ISO13407への具体的アプローチ」です。
インターフェース設計や製品の評価といった、ユーザー工学という分野を概観できる入門書です。ユーザー工学の定義、ユーザー分析やユーザビリティ(使いやすさ)の主な分析手法、ISO13407(対話システムの人間中心的設計プロセス − Human-centered design processes for interactive systems − に関わるISO規格)も含めた今後のユーザー工学の展望までを、初心者にもわかりやすく説明しています。
もちろん分析手法の説明が記載されているからといって、そのまま即戦力で使えるというわけではありません(製品を改善するには、結局のところ分析したデータをどう解析し、新しい操作モデルを構築するかが一番重要ですから)。その前提を踏まえた上で、「製品評価をしたいが、具体的手法がわからない」「ISO13407って最近聞くけれども、何のこと?」などといった疑問をお持ちの方には、最適な入門書と言えるでしょう。
誰でも知っていそうで実は知らない、ユーザー工学という分野を探索するための羅針盤としてお使いください。(ISBN4-320-07146-8、共立出版、3200円+消費税)
本日ご紹介するのは、テリー・ウィノグラード 編著「ソフトウェアの達人たち - 認知科学からのアプローチ」です。一言で「ソフトウェアデザイン」といっても、エンジニアリング的視点、またはデザイン的視点といった様々なアプローチが考えられますし、アプローチ方法によっても見えてくるものが異なってきます。
こういった状況を素直に反映してか、本書ではソフトウェアデザインという分野全体に対して、積極的にまとめの提言を行うような構成は取っていません。各章ごとにソフトウェアデザインの異なった領域を取り上げ、ケーススタディや担当者に対するインタビューを中心にまとめるという構成を取っています。従って、ソフトウェアデザインという行為/プロセスについて自分はどう考えるのかは読者に任されているわけです。
「デザインとは何か? デザイン行為の中では何が起きるのか?」「デザインというものを理解して、ソフトウェアデザイン領域に応用することで、どう改善できるのか」という点について考えてみたい方にはおすすめの書籍と言えるのではないでしょうか。(ISBN4-7952-9733-9、アジソン・ウェンズレー・パブリッシャーズ・ジャパン発行、星雲社発売、2900円+消費税)
今回ご紹介するのは、Windows 98の標準ヘルプであるHTML HelpについてKeiYu HelpLabで精力的に解説されている、石田優子さんの「HTML Help」です。
Windows95の標準ヘルプ(いわゆるWinHELP)の解説書は、翻訳がひどいのか原典が元から腐っているのかわかりませんが、とにかくできの悪いものでした。HTML Helpに関しても、またあのようなMicrosoft社の公式マニュアルしか発行されなかったらどうしようかと当研究所でも頭を悩ませていましたが、石田さんが著者ということで一安心です。センスある著者選定を行ったアスキー出版局には、敬意を表したいところです。
付属CD-ROMにはMicrosoft社製のHTML Helpオーサリング環境も収録されています(発行日段階の最新版です)。HTML Helpについて詳しく知りたい方や、試しに制作してみたい方におすすめできる書籍ではないかと思います。(ISBN4-7561-3060-7、3400円+消費税、アスキー出版局)
本日ご紹介するのは、山田理英 著「広告表現を科学する」です。「より効果的に広告を表現するにはどうすればよいか」という命題に対して、ノウハウといった伝統的なアプローチだけでなく、心理学/認知科学的なアプローチで研究した成果がまとめられています。
人間の目を引くレイアウトやキャッチコピーといった実践的な内容を例として取り上げ、豊富な参考学説による仮定と実際のアンケート結果による検証というプロセスを通して、それぞれの要素を分析/解釈していきます。論理展開と結論には強引な点が散見されますが、議論の過程には注目すべき点が数多く含まれていると思います。
最近マニュアルと攻略本を比較して感じるのは、マニュアル業界には「見せる、目を引く」といった広告業界的なノウハウが不足していることです。確かにこの本の内容は、日常業務に即戦力で生かせるものではないかもしれません。しかし、より効果的な表現を目指したいのであるならば、一度は熟読しておかなければならない本であると思います。(ISBN4-532-64036-9、日経広告研究所発行、日本経済新聞社発売、4000円+消費税)
前回に引き続き、当研究所ならではのおすすめ本を紹介したいと思います。海保博之、原田悦子、黒須正明著「認知的インターフェース」です。インターフェースについて考察するために必要な要素が、40のキーワードごとにまとめられています。
インターフェース問題の全体を把握したいかただけでなく、手軽に読める認知科学の入門書を探しているかたにもおすすめです。1991年発行なので、すこし古さを感じさせる記述が散見されることだけが残念です。
マニュアルやインターフェースの設計は、既存のノウハウをもとにした小手先の技術論で済まされてしまうことが多いと思われます。確かに現場のノウハウはそれなりに重要なものですが、学問的な研究も参考にして自分達のノウハウを常に相対化するくらいのつもりで日々の業務に取り組まないと、凝り固まった発想しか出てこなくなってしまうでしょう(自戒も込めて)。(ISBN4-7885-0386-7、1600円、新曜社)
読書週間ということで、当研究所ならではのおすすめ本を紹介したいと思います。エリック・K・メイヤー著「情報デザインのためのインフォメーショングラフィックス」です。コミュニケーション手段としてのビジュアルはどうデザインされるべきかという視点で、新聞や雑誌に使われるようなビジュアル処理のあるべき姿、テクニック、様々なフォーム(見せかた)についての長所や短所、を解説しています。
この説明でおわかりの通り、実際には直接マニュアルのビジュアル化に結びつくような内容の記事は少ないです。しかし、読者の志向に合わせて構成や見せかたを工夫するためのアイディアや考えかたは、マニュアル制作者にとっても十分に参考になるといえるでしょう。(ISBN4-8443-5472-8、出版社のサイトを見る)
今日は組織論についてのおすすめ本、戸部良一他5名による「失敗の本質 − 日本軍の組織論的研究」です。第2次世界対戦当時の最も洗練されていた官僚組織である日本軍の、組織としての意志決定システムおよび意志決定プロセスを分析することで、今日まで残されているであろう日本的組織の持つ問題点を浮き彫りにすることが本書のテーマです。
本書では、失敗した作戦にこそ組織の問題があらわれるという確信の元に、前半ではミッドウェー海戦やガダルカナル島戦など、個別作戦での意志決定に焦点を当てて分析しています。後半では、意志決定システムや人事評価プロセス、組織的なノウハウの共有、リソースの蓄積といった具体的な例を米軍との対比を通して分析することで、日本軍の組織的特性を浮き彫りにします。そして明らかになるのは、日本軍は自己革新に失敗した組織であるということです。
本書の結論としては「組織がオープンシステムであること(組織自体の自己革新性がどう確保されているか)こそ、真の創造的組織たりうるかの指標である」というところでしょうか。現在のような既存の常識が大きな意味を持たない状況において、未知の状況に的確に対処できるような組織をいかに作り上げるか、というテーマに関しては、本書の分析が参考になると思います。
組織内でマネジメントする立場にいるかただけでなく、日本の組織というものについて関心のあるすべてのかたにおすすめです。(ISBN4-12-201833-1、中公文庫)
クレメンス・モック著「Webデザイン・ビジネス−時代がわかるデジタル情報の再構築ノウハウ」です。
「なーんだ、最近あふれているのWebマスター用の解説本か」と思ってはいけません。この本の主題はいかにビジュアルデザインに凝るかではなく、いかに情報をゲストに提供するかにあるのです。マーケティング的な視点で、情報をどうデザインするかに興味のあるかたには必読の書といえるでしょう。マニュアルに関心のあるかたにも、自信を持ってお勧めできます。
インフォメーション・デザインやインフォメーション・アーキテクチャーという分野についても触れられています。この本を読めば、当研究所が目指すインフォメーション・アーキテクトの概念もおわかりいただけるかと思います(笑)。5800円と高価なのが難点ですが、読んでみて自分の考えをまとめるためのテキストとして考えるのであれば、元はとれるのではないかと思います。(ISBN4-8443-5452-3、出版社のサイトを見る)