1999年12月15日
今回はいつもと趣向を変えて、メーカーでマニュアル制作に携わるかたのお仕事を、その業務形態と問題点という観点から考えてみたいと思います。マニュアル担当者の位置づけや役割はメーカーによって異なりますので、以下の代表的な3つのケースについてそれぞれ検討してみましょう。
マニュアル専門の担当者を置く余裕のない、小規模なメーカーによくあるケースです。また「設計者がつくればいいだろ」「設計補助の人にやっといてもらえばいいんじゃない?」といった感じで、マニュアルに対する意識が低いメーカーでもこのようなケースが散見されます。
こういった職場にいるマニュアル担当者は、マニュアルに関わる仕事すべてを自分一人でこなさなければならないので大変です。自分で制作しながら日程管理を行い、他部署の担当者などと各種の調整も行わなければなりません。そういった制作実務をこなす傍らで、良いマニュアルとはどういうものかについての研究もしなければなりませんし、制作ツールに習熟するための時間も必要になります。
こうして見てみると、この業務形態にはどうも無理がありそうです。すべてを高いレベルでこなすことのできる人材は世の中にそれほど多くありませんし、そのような人材でもすべてを自分一人でこなすのは困難です。そのためマニュアルの品質は二の次で、とにかく完成させることが最優先という仕事になってしまうことが多いのではないでしょうか? これでは最終的にユーザーのメーカーに対する信頼が低下し、ユーザーの負担が増えるだけというお寒い状況から一歩も脱出することはできません。
このケースでは、マニュアル制作を思い切ってプロの制作会社にアウトソーシングすることを検討してみた方が良いように思えます。マニュアル制作にかける工数を考えると、最初から外部の制作会社を利用したほうがコストダウンにつながることも多いはずです。担当者が異動/退職することにより業務が一発で停止してしまう、というリスク管理の面からも検討する価値はあります。社内の各部署との調整やマニュアル自体のターゲットユーザー設定などといった、メーカーとして行わなくてはならない業務だけに社員が集中できる業務分担を取ることを強くおすすめしたいと思います。
先ほどの「アウトソーシングした方が良いのでは . . . 」ということで外部制作会社を利用するのがまさにこのケースです。たぶん日本ではこのケースが一番多いのではないかと思います。
このケースでは、設計者と制作会社のやりとりが円滑に行われるようにするための伝達/管理がマニュアル担当者の主な業務になります。その中でも最大のポイントは、「どんなマニュアルを誰に提供するのか」というマニュアル自体の方向性の指示と、マニュアル制作の日程/進捗管理というところになるでしょう。
そうはいうもののマニュアル担当専任というわけにはいかないでしょうから、他の日常業務もこなしながらということになるのが辛いところです。また、何故か外注管理だけでなく、実制作をも同時に担当せざるを得なくなって首が回らなくなっている、というような話もよく聞くところです。
さてこうした状況では、制作管理に関する知識や、制作システムそのものに対する知識は必要に迫られて身に付いてきます。しかしその一方で、業務に追われて視野が狭くなってしまい、「そもそも良いマニュアルとは何ぞや?」といった広い見地から物事を見る余裕がなくなりがちになるという問題もあります。マニュアルを改善しようとしてもどうすれば良いか皆目見当がつかなかったり、新しい発想で制作しようとしてもネタがないことに気付いて愕然としたことがある、というような経験をお持ちの方は要注意です。
制作管理に専念できない状態であるならば、手間のかかるひな形モデルの制作や、ノウハウの要求される完成マニュアルの品質評価といった作業をアウトソーシングしてしまうのがおすすめです。外部制作会社をうまく利用して、欠けがちである広い視野を確保しつつ、自分たちの業務の負荷を下げる方向に持っていければベストでしょう。
最後に、マニュアル制作担当の独立した専門組織があるケースではどうでしょうか。専門組織と一口に言っても、実際にはマニュアルを内部制作している場合と、制作はアウトソーシングして制作管理や品質評価を中心とした業務を行っている場合など、さまざまな形態があるのですが、便宜上まとめて考えることにしましょう。
さてこのような組織(部署)にはメーカー内のマニュアル担当者がすべて集まる形になるので、個別部署にそれぞれ担当者を置いておくよりも、トータルでより少ない人数で仕事を回すことが期待できます(お互いの仕事の山/谷をうまく相殺できるためです)。従って同じ人数を置くのであるならば、マニュアルの品質評価や将来的なビジョンを検討する業務に人員を回すことができます。また、担当者が同一部署に集まっているので、表現やデザイン、方向性などの統一が容易であるといったメリットもあります。マニュアルに関わる人員が多いメーカーでは、各部署にそれぞれ担当者を配属するよりも、この方法が適していることも多いのではないかと思います。
これだけでは良いことずくめのようですが、専門組織には専門組織なりの宿命があります。実制作をその組織で行っているということであれば存在価値は明確なのですが、制作管理や品質評価を中心とした組織の場合には、「あそこはいつも何やってんだ?」という視線に耐えられるような組織でなくてはなりません。つまり、制作管理や品質評価それ自体のためだけに存在価値があることを自ら証明していかなければならない以上、組織全体および担当者個人にかなりのスキルが要求されるということです。
ご存じのように(笑)マニュアル制作を担当する部署は単なる間接部門ですから、自ら存在価値を証明できないのであるならば、当然のことながら組織それ自体がリストラの対象となります。ということはつまり、自分たちはメーカー内の組織という保護下を離れても十分にやっていける(つまり独立した法人としても十分経営していける)というくらいの自信と実績、そしてそれらの裏付けとなる高度なスキルがないと、この種の専門組織の存在意義はほとんどないと言えるのかもしれません。
いかがでしたか? 一口にメーカー内でマニュアル制作を担当しているといっても、いろいろなケースがあることがお分かりになったかと思います。
実際問題として同じマニュアル制作担当者でも、業務形態によって必要とされるスキルが異なります。まずは自分たちの業務に最適化したスキルを取得し、業務構造上不足しがちなところは外部組織を利用することを検討すべきです(外部制作会社と上手につきあう方法についても、そのうちに特集したいと考えております)。
こうすることで、限られたリソースでも良いマニュアルをユーザーに提供する道が開けるのではないかと、当研究所は考えています。