Webサイトの製品情報について考える

2002年8月12日

所長宅の洗濯機が壊れたため、洗濯機を物色することになりました。

ですが、いきなり電気店に出向いたところで、陳列されている洗濯機の数に圧倒されるのが関の山です。そこで賢い消費者として(笑)、メーカー各社のWebサイトで事前調査と絞り込みを行った上で、店頭で比較検討して購入するという作戦を採ることになったのですが . . . 。

Webサイトの製品情報はどの程度役に立ったのでしょうか?

商品選択にあたっての基本情報は何だろう?

洗濯機を選ぶ際には、以下の項目についてまず判断することが必要です。

これらは製品情報のうちの基本情報と呼ぶことができるでしょう。

もちろんメーカー各社が注力している洗剤量の削減や洗濯槽のカビ防止、動作音の低減などといった付加価値機能についても知りたいですが、付加機能はあくまで「付加」情報であって、基本機能に優先する物ではありません(もちろん特定の付加機能が最優先される場面もあるでしょうし、そのような場面を数多く作り出すためにこそ、メーカーの機能競争がある訳ですが)。従って、商品一覧ページの時点でユーザーが基本情報に関する情報を把握できるように、商品情報ページを構成すべきです(商品ジャンルは違いますが、こんな感じに整理されていれば良いでしょう)。それぞれの機種のページを直接閲覧しないと基本情報が把握できないようでは、Webサイトの構成として問題があります。

というはずだったのですが、実際にWebサイトで事前調査を行うと、敵はかなり手強いことが判明しました。2002年8月上旬段階では、トップページから洗濯機の商品一覧ページを表示させることすら難儀するメーカー(以前から思っていたのですが、ここはグループ会社/所有ブランドを含めてゼロベースで情報を再構築する必要がありそうな気がします)、一部の判断基準は示すもののの、機種名を並べることが中心のメーカー、そして製品一覧が存在するのかどうかすらわからないメーカー . . . 。

洗濯機の製品情報調査という比較的ニッチな需要ではありますが、洗濯機を扱う国内メーカーはそれほど多くないというのに、この状況は一体どうしたことでしょう。基本的な情報の処理に問題があるようでは、かなりお粗末と言わざるを得ないでしょう。

その立場にならないとわからない落とし穴

さて、洗濯機を選ぶにあたっては、忘れがちな落とし穴があります。これは実際にそのような状況になったことのない方には想像しにくいでしょうが、設置スペースの問題なのです。居住住宅で洗濯機の配置場所としてどれだけのスペースが確保されているかによって、商品の選択肢が限定されてくるのです。これは物理的な設置スペースだけでなく、洗濯機と床面の排水口との位置関係による排水ホースの取り回しといった諸条件を含みます。狭い狭いといわれる日本の住宅では、影ながら切実な問題と言えるでしょう。

ですが、これらの面に関する情報は、仕様として外形寸法と排水ホースを含めた最大寸法を掲載している以外、どのメーカーにも存在しませんでした。せめて排水ホースの出口が左右のどちら側なのか(背面から引き出し可能か)、ホースの取り回しに最低限どれくらいのスペースが必要なのかというような情報は、すぐ目に付くような場所に明記して欲しいものです。これらの情報が存在しないと、購入したは良いが、届いてみたら設置できなかったという、笑えない話につながりかねません。日常に存在することが当然視される製品だからこそ、このような問題が起こる余地があるようでは困るのです。

もっとも、「最近の洗濯機はほとんど左右両面から排水ホースを引き出せる」と店頭で販売員の方に伺ったことで、そのような心配は杞憂だったことを知りました(苦笑)。ですが、最近洗濯機を買い換えようとしているユーザーのほとんどは、排水ホースが片面固定だった洗濯機をそれまで使っていたに違いありませんから、そのような時代の進歩は説明を受けないとわからないですよねえ。メーカーの常識=ユーザーの常識という訳にはいかないことが、この例からも見て取ることができます。

アリバイ・ユーザビリティなんか要らない

それでは、このような問題はどうして起こるのでしょうか。

Webサイトに掲載される製品情報の多くは、紙媒体のカタログ資料を転用していることが多いでしょうから、一概にWebサイトの制作側だけを責める訳にはいかないということは重々承知しています。ですが、Webサイトの商品情報とは、今回の例のように消費者が購入前の事前調査/絞り込みのために利用する場面がほとんどなのではないのでしょうか。その点を考慮すると、現状のWebサイトの商品情報はユーザーの商品選択基準に合わせて情報を構成していないばかりか、メーカーが伝えたい情報と、消費者が知りたい情報との間にギャップを作っているという問題を抱えていることになります。

この種のギャップを意図して作りだしている例(販売店やメーカーへの積極的なアクションを誘発するなど)も存在するのでしょうが、ほとんどの場合は単に意識していなかっただけのように思えます。情報提供に携わるのであるならば、消費者(ユーザー)が知りたい情報とは何かについて、もっと敏感になる必要があるのではないでしょうか。例えば今回の洗濯機の例では、設置スペースによる制約が出てくるということを理解しているのであれば、あらかじめ設置スペースの測定を促すとか、設置スペースから選択可能な洗濯機の機種を示すような形で情報を提示してみるといったこともできるはずです。

Webサイトのユーザビリティに注目が集まるようになってそれなりの時間が経過しましたが、このような問題は製品情報に限らず、様々な分野で相変わらず目にします。ユーザビリティの実現にあたっては、ユーザーの行動を知ることが重要とよく言われますが、それだけでは不足です。ユーザーの行動が何に基づいて行われるのかを理解することが最も重要であって、「ユーザーを知る」とはまさにそのことを指すのです。最近とみに重要視されるコンテクストという概念も、その一環として捉えるべきでしょう。想像力の欠如した、見せかけだけのユーザビリティ(アリバイ・ユーザビリティ)では、ユーザーの満足度を向上させることなどできるはずがありません。

そういう意味で、Webサイトの製品情報が「使える」ものになるためには、アリバイ・ユーザビリティからの脱皮がまず求められるのではないでしょうか。

いかがでしたか?

研究発表のネタはそれなりにあるのですが、なかなか熟成させるに至らないこともあり、一発芸的ネタとしてプチ研究発表としてまとめてみました。雑誌などのインタビューで「ユーザーからこのようなフィードバックがあったため、改善しました」など「んなこと最初からわかるだろー!」という話を散見しますが、そのような話が少しでも減ればよいのですが . . . 。

もちろんユーザーを知るという話は、Webサイトだけでなくマニュアルの世界でも重要です。実際問題として、すべての機会でユーザー像を的確に把握することは困難なことも事実ですが、意識だけは高いレベルを保ち続けるようにしたいものです(自戒を込めて)。

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