今回は少し目先を変えて、考えさせられる本のご紹介です。ネタは「誰のためのデザイン? − 認知科学者のデザイン原論」(D.A.ノーマン著、野島久雄訳、新曜社、3399円)です。
この本はプロダクトデザインやインターフェースデザインに当たってを生業としている方には必読の書と言えるでしょう。そうは言っても、本当のプロフェッショナルの方には「これに書かれていることなんぞ初歩の初歩、常識じゃい!」と怒られてしまうかもしれません。
この本のスタンスは、序文の次の一節に表されています。
「私は、ヒューマンエラーや産業事故の研究をするようになった。そしてわかったのは、人がいつでも不器用に行動するとは限らないことであった。いつでもエラーをするわけではない。人がエラーをするのは、その物がよく考えられていなかったり、デザインが悪かったりするときなのである。」
人は決して進んでミスをするのではないから、ミスを誘発せず、正しいナビゲーションをするデザインが重要である、ということですね。まったくもって、正論です。
内容をすこし詳しく見てみましょう。本書では、ユーザビリティに関係する人間の認知構造から、それをうまく生かすデザインの原則までの幅広いテーマを扱っています。それぞれのテーマに関しては、実例や著者の体験を交えておもしろおかしく展開されています。実例としてあげられているのは、プロジェクター、ドア、電話、あげくの果てには原子力発電所のレバーなど、多種多様です。
おもしろおかしくといっても、それは認知科学の原則・概念をわかりやすく用いるために他なりません。本書の中でも以下のような原則・概念が取り上げられています。
これらのテーマはハードウェアにしろソフトウェアにしろ、設計に関係する方々には是非認識しておいていただきたいものです。マニュアルに関係する方々にも一読をおすすめいたします。知っていて損になることは決してないかと思います。
最初は「この本をある程度まとめてWebでご紹介しよう」と思っていたのですが、やはり無理があったようです。内容の紹介と言うより、本の方向性の紹介になってしまいました(どうも書評には向いていないようです. . . 。)
400ページを越える本なので通勤通学中には無理かもしれませんが、お暇があればぜひ目をお通しください。この研究発表を読んで頂いている皆様には、とても有益な本になることを確信しております。
いかがでしたか? 慣れない書評で、せっかくの面白い本が台無しになっていないことを祈ります。ちょっと高価なのがネックですが、図書館にもきっと置いてあることと思います。