今回はマニュアルを巡る、メーカーの義務、ユーザーの義務についてそれぞれ考えてみたいと思います。
とかく「わかりにくいマニュアルばかり作るな」「文句を言うまえにマニュアルを読め」という不毛な議論になりがちな両者の関係ですが、すこし落ち着いて、あるべき関係を考えてみたいと思います。
雑誌の論評やいろいろな人の話を総合すると、メーカーはわかりやすいマニュアルを作る努力をまずしなければならない、と考えている人が多いように思われます。
いきなり否定するようで申し訳ありませんが、それは違います。マニュアルを作るにあたって、まず最優先されることは正しい情報をお客様に提供することなのです。
誤った情報が書かれていれば、ユーザーは自分の目的にあった操作をすることすらできません。適切な警告/注意文がなければ、火災や感電、事故死の原因となる可能性すらあります。
そんなことあたりまえじゃないか!! と思ったあなた。あなたは正しい、しかし間違っている. . . 。
誤解を解いておかねばなりません。正しいマニュアルを作ることは簡単ではありません。現在の複雑な機器/ソフトウェアの正しいマニュアルを作ることは、とてもとても大変なのです。正しいマニュアルを作ることは、普通の人が思っている以上に大変なのです。正しくわかりやすいマニュアルを作るのは、それにも増して大変なのです。
だからといって、わかりにくいマニュアルが氾濫している現状の言い訳ばかりしていて良いわけがありません。わかりやすいマニュアルを作るための努力は放棄してはならないのです。
ここまでで見てきたように、正しい情報を提供するのがメーカーの義務である、ということをユーザー側も認識しておく必要があります。また、他のところで発表したように、メーカーで提供するマニュアルには、「わかりやすさがすべて」というスタンスがとれないことも、ユーザー側は理解しておくべきです。
さて、ユーザーの義務ですが、何と言ってもとりあえずマニュアルは読むことがあげられるでしょう。
マニュアルも読まずにサポートセンターに電話をかけてくるなんて、論外以前です。いい加減にして欲しいものです(Macintoshの販売会社である(有)パスカルのサポートページに、面白い記事があります)。
マニュアルを読んだけれどもわからないときは、「読んだけれどもわからない」「読んだけれども、どこに書いてあるのかわからない」とサポートの窓口に具体的に伝えるべきです。
「マニュアルを読んだけれども、こういう理由でわからない」と具体的にメーカー側に伝えることで、マニュアルが改善されることもあるからです。単に「わからない」では、これからのマニュアルも良くはならないでしょう。また、メーカー側の担当者がクレーム対策であちこちに「ご注意」をばらまくために、マニュアルがかえって読みにくくなることもしばしば見受けられます。これでは本末転倒です。
また、良いマニュアルに巡り合ったときは「○○のマニュアルはとても良かった」とメーカー側に伝えた方が良いのはいうまでもありません。
こういう時代ですので、電子メールで送るだけでも良いと思うのです。減点法の評価(クレーム)だけでなく、加点法の評価をしてみてはどうでしょう。
既存のマニュアルの良いところを伸ばすのも、ユーザーの役割であると考えますが、いかがでしょうか。
ここまで読んできて、ユーザー側ばかり割を喰っているような気がした方も多いと思います。しかし、現実としてはこのようになるしかないと思うのです。
一番の問題は、両者がフレンドリーに、本音で話し合える場所があまりないということだと思います。話し合う場はないわけではありませんが、そういう場所では最初から「またバカが余計なことをいってやがる」(メーカー側)、「あの無能なバカどもに思い知らせてやる」(ユーザー側)という険悪な雰囲気になっていることがあるように思えます。
これでは良いマニュアルは生まれません。「ユーザーの声を聞く」(メーカー側)、「メーカーにユーザーの立場を伝える」(ユーザー側)のも結構ですが、両者がマニュアルについて気軽に話し合う場が必要なのではないかと思います。
マニュアル制作者は、無能な上司の一言や、マニュアルの本質を見ようともしない無責任なマスコミの記事の攻撃にさらされ、無意識のうちに守りに入りがちです。したがって、こういう場こそユーザーとの有益な情報交換の場として機能するでしょう。
当研究所としても、こういった場をうまく提供する方法を考えていきたいと思います。
いかがでしたか?
今回はマニュアルを巡るメーカーとユーザーのあるべき関係について、さらっと考えてみました。本当はこれだけではないのですが、細かくやっていくと研究発表にならなくなってしまいますので、この辺にとどめておきたいと思います。何かご意見、ご感想がありましたらこちらまでお寄せください。