このコーナーもめでたく第30回を迎えることができました。これもひとえに読者の皆様の応援のおかげです。これからも充実した研究発表のために努力していきたいと考えておりますので、今後ともよろしくお願いいたします。
さて、今回は『そのコンピュータシステムが使えない理由』(Thomas K.Landauer著、アスキー出版局、ISBN4-7561-1718-X、¥3000+税)という本の紹介です。マニュアル制作とユーザビリティ研究の見地から、同書でとりあげられている興味深い事柄に焦点を当てて見たいと考えています。
「職場にパソコンを導入したが、あまり生産性に変化はないように思える」とお考えの管理職の皆様、「職場に新管理システムが導入されたんだけれど、かえって仕事の効率が落ちているような気がする」という気がしている会社員のあなた、あなたの感性は正しい。
この本の主題は、生産性向上に寄与しないコンピューターシステムの欠陥を、ユーザー中心のデザインによってあるべき姿に導くことです。そのための前提として、コンピューター導入に伴って生産性が劇的に向上しているわけではないことを数々の実証的なデータで示しています。いえ、別に生産性が向上していないわけではありません。ただ、期待値よりは大幅に低いのです。
この生産性に関する分析は、観念論ではなく、実証的なデータに基づく分析であるため、それなりの説得力を持っています。
そうはいっても、この本の著者はコンピューターシステムはすべて役に立たないと主張しているわけではありません。少なくとも、単純なコンピューターによる制御=オートメーション化による生産性の向上に関しては異論を差し挟んでいません。
彼が問題としているのは、ホワイトカラーのような、創造的な仕事をする人たちための支援ツールとしてコンピューターシステムが有効に機能していないのは何故か? ということなのです。
もっとくだいて言えば、この問題は「一般的に業務支援システムとして機能するはずのシステムやソフトウェアが、本来の目的をなぜ達成できないのか?」という問題に収束します。問題は第2次産業におけるコンピューターの利用法にあるのではなく、第3次産業における利用法にあるわけです。
その例としてあげられているのが、銀行のATM(自動支払機)であり、商店の会計システム、テキストエディタやワープロといったソフトウェアなのです。
うまくいった例もありますが、うまくいかない例もかなりあるようです。
では、どうすればよいのでしょうか?
そこで登場するのが、ユーザー中心のデザイン(UCD = User Centered Design)です。ユーザビリティを考慮に入れることで、生産性がどれほど向上することか!
本書ではユーザー中心のデザインを実現するための、実例に基づいた手段も豊富に登場します。さまざまな分析、アイディアの評価、そして. . . テスト。
テストや分析のしかたもさまざま方法が解説されています。例えば、形成デザイン評価、パフォーマンス分析、ガイドライン、そして科学理論の利用。
このあたりの話については、ぜひ本書を実際にお読みになることをおすすめします。かなり内容が濃いので、決して損をした気分にはならないかと思います。
「詳しくは実際にお読みください」といったものの、それだけではあんまりですよね。そこで、本書で紹介されているさまざまな分析方法のうちで、当研究所として一番気になった「ニールセンの発見的規則」を紹介したいと思います。
これはデンマーク工業大学のヤコブ・ニールセンが導きだしたコンピューターのユーザーインターフェース品質判定用の発見的規則です。これらが満たされていれば、品質の良いユーザーインターフェースをユーザーに提供できている、と判断してよいわけです。
ではさっそく見てみましょう。
確かにこれだけ兼ね備えていれば、きっと使いやすいものになるでしょうね。
でも仕様書の作成をじっくりやったうえでテストを重ねないと、なかなかうまくは行かないですよね。
設計プロセスの改革という意味で、モノ作りの基本から考え直してみなければならない時代になったようでございます。
いかがでしたか?
今回は『そのコンピュータシステムが使えない理由』という書籍の興味ある部分を紹介させていただきました。この本を購入しても、決して損はありません。参照用の書籍一覧も充実しています(ただし、英語です)。マニュアル制作者やユーザビリティに興味がある方だけでなく、ハードウェアの設計者やプログラマーの方にもぜひ読んでいただきたいと思います。何かご意見、ご感想がありましたらこちらまでお寄せください。