最近PDFマニュアルやPDF文書が安易に広がりつつあるように思えます。しかし、本当に読ませるつもりなのか?と思えるような出来のものが多いことも事実です。
今回は、PDFマニュアルはかくあるべきというよりも、それ以前に押さえておかなければならない点 − そもそもPDFは実際のスクリーン上でどう見えるのか − について考えていきたいと思います。[1998.1.26改訂]
実際にどう見えるかを考えるにあたって、現状の表示デバイスの性能を把握しておく必要があります。
まず、現状の表示デバイスで表示できる表示解像度ですが、一般的に普及しているものとしては、以下の解像度があります。
他にも1280×960とか、1600×1200などの解像度もありますが、あまり一般的ではないと思われるので省略します。
次に、スクリーンサイズについて考えてみましょう。これもまた一般的に普及しているものとしては、以下のスクリーンサイズが考えられます。
他にも19型とか21型CRTディスプレイや、13.8型液晶ディスプレイなどもありますが、まだあまり一般的ではないと思われるので省略します。
表示解像度の種類とスクリーンサイズに加えて、画面でどう見えるかを考えるにあたってはスクリーンサイズ×表示解像度の関係を押さえておく必要があることを忘れてはなりません。つまり、8.4型でもVGAモードのときと、SVGAモードのときに表示される文字の大きさはまったく異なってくるということですね。
このあたりを前提として押さえておけば、だいたい問題はないかと思います。
いままでノートパソコンのVGAサイズの液晶ディスプレイなど、表示解像度の低い表示デバイスでPDF文書をご覧になったことのある方はご存知かと思いますが、PDF文書を表示したからといって、原寸大(100%)で表示すれば良いというものではありません。
というのは、PDF文書のサイズによっては、100%で表示させると、ディスプレイの表示範囲に収まりきらないという問題があるからです。「100%表示にしてスクロールバーでずらせばよい」と考える方もいるかと思いますが、Acrobat Readerでは、スクロールバーをずらしすぎると次のページが表示されてしまうのです。
つまり、スクロールバーにページ移動とページ内移動という相反する機能を同時に持たせている訳で、これは最悪な仕様と言わざるを得ません。
初期設定が「全体表示」の方が見やすいと思うのですが、現状として紙ベースのものを安易にPDF化した文書が多いことに対処するには仕方のない面もあるのでしょう。
では、「全体表示」にしたときに、一体何%の倍率で表示されるのでしょうか?
紙マニュアルを単にPDF化した手抜きPDFマニュアルの場合、縦のA5サイズやB5サイズのマニュアルをそのままPDFにしています。
ここでは例として、縦のA5サイズ(210×148 mm)のPDFを、VGA、SVGA、XGAのそれぞれの表示解像度で表示したときに、「全体表示」に設定したときに何%で表示されるのかを試してみましょう。
こうしてみると、縦のA5サイズという、紙マニュアルとしては比較的コンパクトな部類に入るものでさえ、VGAサイズのディスプレイでは100%で全体表示できないことがわかります。
この現象は、21型などの、どんなに大きいディスプレイを利用してもVGA表示をしているかぎり生じる問題だということにご注意ください。
つまり、VGA表示では表示解像度(ドット数)が足りないために、1画面中には表示しきれないのです。
ここまで論理的な意味でのサイズについて見てきましたが、次に物理的なサイズについて見てみましょう。
一般的に、マニュアルでは本文の文字の大きさとして、9 pt.前後(12級〜13級)を使用することが多いと思われます。紙に印刷されたときならば、物理的に3 mm程度の大きさですね。
では、この9 pt.の文字はスクリーン上でどのくらいの物理サイズで見えるのかを計算してみましょう。けっこう意地悪な展開ですね(笑)。
計算方法ですが、以下の通りとします。
この結果、下表のようになります(単位はpt. )。
VGA | SVGA | XGA | |
---|---|---|---|
8.4型 | 6.7 | 5.4 | − |
10.4型 | 8.8 | 6.7 | − |
12.1型 | 9.7 | 7.7 | 6.1 |
15型 | 12 | 9.6 | 7.5 |
17型 | 13.6 | 10.9 | 8.5 |
WindowsとMacintoshでは、システムとしての標準の画面解像度に相違があります。Windowsは96dpi(dot per inch=1インチ当たりの点の数)であり、Macintoshは72dpiです。
Macintoshの72dpiという数値は、本来画面表示とプリントアウトを一致させる(WYSIWYG=What You See Is What You Get)ために採用したもので、画面上の1ピクセル=1ポイントとなります。したがって、大雑把に言って100ポイントの文字は約100ピクセル四方で構成されます(なお、これは標準ディスプレイを使っていたときの話で、いまのマルチスキャン時代ではどうしようもないことはご存知の通りです)。
しかし、Windowsでは96dpiのため、画面上の1ピクセル=0.75ポイントとなります。そのため、100ポイントの文字は約133ピクセル四方で構成されることになります。
したがって、同じポイントの文字でも、Windows版の方が画面上では大きく見えます。同じポイントの文字を表示するために、より多くのピクセル数を使っているのですから、当たり前といえば当たり前です。
ただし、これは画面上ということであって、プリントアウトしたときは同じ大きさです。
画面上で大きく見えることは一見メリットのように感じられるのですが、その分画面あたりの表示可能文字数が少ない=表示面積が狭い、というデメリットを抱えていることにもなります。
例えば、Macintosh版で全体表示したときに100%(原寸大)で表示できるPDFファイルでも、WIndows版では75%表示にしないと、全体表示ができないことになってしまいます。
結果的に、Windows版は画面上の文字の見かけの大きさはMacintosh版の4/3(約1.33)倍であるが、PDFファイルの全体表示をするとMacintosh版の3/4(0.75)倍にしかなりません。
簡単な計算ですが、4/3×3/4=1です。つまり、PDFファイルを全体表示させているときに関しては、Windows版とMacintosh版の見かけの表示文字の大きさは変わらないのです。
というわけで、実は気にする必要がなかったのでありました(98.01.26追加)。
なお、今回の発表には結論はありません。
この発表を元にして、皆さんがPDFを画面上でどう見せるかの参考にしていただければと思います。特に、文字やグラフィックなどの表示サイズを気にしている方には参考になるかと思います。
それだけではありません。気が付いているかたも多いかと思いますが、これはPDFだけに限った話ではないのです。
自分の制作しているものが様々な表示デバイス上でどう見えるかということは、電子出版に関連する、すべての人に関わるテーマなのではないかと思います。
いかがでしたか?
今回は数値も多く(笑)、一般的な研究発表らしい研究発表だったように思えます。ただし、数値の計算方法や基準値など「自分はこう考える」というかたも多いかと思います。今回の発表は特に、皆様からのフィードバックも積極的に取り入れて、どんどんバージョンアップしていきたいと考えております(Windows版の数値も97年中に追加します)。これからも電子マニュアル関連について、より実証的な見地から研究を進めていきたいと考えていますので、ご期待ください。