今回はいろいろな潮流のなかで役割を変えていきつつある、紙マニュアルについて考察してみたいと思います。
不景気のせいだけでないのですが、とにかく部品代としてのコストがかかる紙マニュアルは、以前にも増して削減される傾向にあります。これはハードウェア、ソフトウェアを問わず進行しているようです。
また、ソフトウェアに関しては(場面は制限されますが)、ディストリビューション(流通/配付)のコストダウンを念頭において紙マニュアルを省略する、という動きも出ています。
さすがにハードウェアに関してはマニュアルレスにするわけには行きませんが、コストダウンのあとは確実に認められます。極端に紙質の落ちた用紙とか、カラーが白黒になったとか、こころなしかレイアウトがきつくなったような気がするとか . . .。
皆さんのまわりでも、そのような紙マニュアルに心当たりはありませんか?
さて紙マニュアルのコストダウンと一口に言っても、実際には以下のような2通りの側面が混同されていることが多いようです。
実際にはてっとりばやく始められる印刷のコストダウンから手を付けておいて、そのあとに制作のコストダウンを検討するところが多いようです。
しかし、結局行き着くところはページ削減なのです。ページを削減すれば、制作費と印刷費のどちらのコストも一挙に削減することができるわけですから。
ではコストダウンによって削減された紙面に、ユーザーに必要な情報はすべて掲載できるのでしょうか?この問題に対しては、各メーカーは次の3通りの方法の対策をしているようです(もちろん併用もすることもあります)。
最後は冗談にしても、共通するのは情報の種類に合わせて、ユーザーに最適な手段で提供するという姿勢です(もちろん紙マニュアルの削減方法を考えあぐねた末に、単に「全部電子化してしまえ」と考えたに違いない、とういうことがミエミエのものが多いことも事実です)。
ただしこの姿勢は、紙マニュアルを減らすためにどうするかという側面からではなく、どうしたらユーザーに操作情報をもっとも効率良く、わかりやすく伝えることができるのかという側面から出てこなければならない、ということを忘れてはなりません。
結果的に良い方向に行っている以上、あまり贅沢は言うべきでないのかもしれませんが、本質を押さえておかないと、いつまた訳のわからない亜流が出てこないとも限りませんからね。
コストダウン圧力によるページ削減と情報の提供手段の最適化、という流れを受けて、紙マニュアルに掲載されるべき情報の種類が明確になってきているように思えます。
つまり紙マニュアルに掲載される情報は、それが紙マニュアルで提供されなければならないという必然性を持つ情報に絞られてくるのではないか、というのが当研究所の考えです。それ以外の情報については、わざわざコストアップの要因となる紙マニュアルではなく、電子マニュアルなどの部品単価がかからないメディアに移行し、ユーザーにとっての利便性も確保するという方向に流れるのではないかと考えます。
では、紙マニュアルに掲載される必然性を持つ情報とは、いったいどういうものでしょうか? 必然性が高いと思われるものから考えてみましょう。
こうして見てみると、今後の紙マニュアルはユーザーと製品の最初の橋渡しという役割を、これまで以上に担うことになるといえるでしょう。確かにこれまでもこうした役割を求められてはいましたが、それよりも製品全体の情報の提供という、最大の使命が優先されてしまう傾向があったように思えます。
すべてを紙マニュアルで説明する必要があった時代には、紙マニュアルの肥大化と、それに伴うマニュアルの役割の不明瞭さが問題となりました。ところが紙マニュアルには最初に必要な情報だけを精選して掲載できる(せざるをえない)状況では、紙マニュアルの役割はより明確なものとなるに違いありません。
外圧によって紙マニュアルの役割が変わるといっても、それが結局紙マニュアルをユーザーと製品との橋渡しという本来の役割に押し戻すことになるのですから、なんとも皮肉なものです。
メーカー本位の事情で紙マニュアルの役割が変わるという現実はあるにせよ、この現象はユーザーにとってもマニュアル制作者にとってもプラスに働く側面が十分にあるということを見逃してはならないでしょう。
そう考えると、外圧歓迎ということになるのかもしれませんね(笑)。
いかがでしたか?
今回は紙マニュアルの役割の変化という点に注目してみましたが、「役割の変化に応じて具体的にどのような紙マニュアルを目指すべきか」というテーマに関しても機会をみて発表したいと思います。