悪評高いOffice97のマニュアルのどこが悪かったのかについて、所長がtc-streetにポストした内容を修正して公開したいと思います。

マイクロソフト社によると、来月に日本語版が発売されるOffice2000ではマニュアルやヘルプがかなり強化されているとのことで、きっと今回取り上げるような問題とは無縁のはずでしょう、きっと(意味深)。

何が悪かったのか?

今回ネタになるのは、「Office97 Personal Business Edition 活用ガイド」です(なぜPersonal Editionかというと、バグが多いという話ですので当初のOffice97の購入を見送ったことに加え、PowerPoint97が特に必要なかったからです)。なお、購入したものはアップグレードパッケージですが、マニュアルの表記中にもアップグレード専用というような表記がなかったので、一般向け製品にも同じマニュアルが同梱されているという前提で話を進めます。

さて、ユーザーに対する情報をどうやって提供していくかという視点で考察してみると、マイクロソフト社はヘルプを主力にして紙マニュアルを導入のためのツールとして利用するという意図を持っていたと考えられます。しかし、実際の紙マニュアルとヘルプの内容を見ると、意図と内容のミスマッチが多分に見られると言うのが実状でしょう。
ヘルプと紙マニュアルを併用してユーザーに情報を伝達しようとする場合、基本的にヘルプに参照機能を持たせ、紙マニュアルには導入機能を割り振るのがオーソドックスな手法と言えるでしょう。定型操作に関しては、上記の手段に加えてウィザード機能を組み合わせることもできます。

しかし、このように各種の操作情報を情報の種類に最適な手段でユーザーに提供しているのであるならば、攻略本の氾濫に代表されるようなユーザーの不満は(あれほどまでには)起こらなかったはずです。問題の起こった背景には、手段の選択以前の問題として、それぞれの手段の実力を過大評価し、情報の構成や分類を甘く見ていたのではないかという疑問が浮上します。
Office97のマニュアルが失敗作であるといわれるのは、それが原因ではないでしょうか?

導入の役割を果たしていない紙マニュアル

現状の紙マニュアルは、お世辞にも導入の機能を果たしているとは言えません。見出しの時点で、「こんな機能があります、あんな機能があります」という機能の羅列に終始しているに過ぎません。
本来はチュートリアルマニュアルとして、ユーザーに実際に何らかのタスクを課して、そのなかでソフトの基本的な操作モデルをユーザーに習得してもらえるような配慮が求められるところでしょう(特に今回の評価の対象であるPersonal Business Editionということを考えると、対象ユーザーはいわゆるオフィスユーザーとは微妙に異なってくるはずです)。

例えばWordであれば、以下の項目の基本的な流れを押さえておいた上で、それぞれの操作の細かい分岐(プリントアウトのかわりにFAXするときはどうするとか、メールで送りたいときはどうするといった操作ですね)に関してはヘルプを参照してください、というのがあるべき姿だと思います。

  1. 書類をつくる(開く)
  2. 文字を入力する
  3. 文字飾りをつける
  4. 絵を入れる
  5. プリントする
  6. つくった書類を保存する

今回のような紙マニュアルの場合、こうした基本機能の説明の後に、使いこなすためのヒントを要点とポイントを絞って載せるというのが適切であると考えられます。
「豊富な機能をユーザーに訴求したい」というメーカーとしての意図も理解できない訳ではありませんが、それは押さえるべきところを押さえた上でやるのが常識です。紙マニュアルのページをケチるのであるならば、ユーザーにとって優先順位の高い情報を掲載するべきではないでしょうか。

そういえば思い出しました(笑)。レイアウトの質感も低いです。
紙面の四方を最初からスミアミ(20%くらい)で囲ってしまっているので、画面イラストや各種見出し処理がページの中に埋没してしまい、メリハリが全くありません。1色しか使えないのにスミアミで囲ってしまうなんて、最初からメリハリをつけるための手段を放棄しているようなものです。
手順数字のビジュアル処理も中途半端ですし、手順とイラストとの関連を示すための工夫の跡もあまり見られません。

必要な情報を探せないヘルプ

そもそも、実際に参照機能をうけもつヘルプのキーワード検索の使いにくさについては言うまでもありません(皆さんも苦労されていませんか?)。
実際にソフトで使用されている機能名を入力しないとヒットしないのですから、「こういう機能はないのか?」と思って検索しているユーザーが探しだせるはずがないでしょう。ソフトウェアの機能名ではなく、一般のユーザーがその機能名について考えそうなキーワードを事前に用意しておくといった配慮が必要なのではないかと思いますが、いかがでしょうか。

WordやExcelといった巨大ソフトウェアになると、紙マニュアルで説明しきれずにヘルプ行きになる機能が必然的に多くなります。しかし一覧性に欠けるヘルプだけでは、自分が期待している機能が果たして存在するのかどうかすら判断できなくなってしまうということも、重大な問題ではないかと思います(できる/できないを判断するための情報すら見つけられない、ということです)。
困ったときに見るから「ヘルプ」と呼ぶのだ、ということを前提とした構成や配慮を切に望みたいものです。

マニュアルに対する態度がなっとらん(怒)

マイクロソフト社も、認識を大いに改めて欲しいものです。
来月発売予定のOffice2000では、ヘルプを強化したり、ターゲットユーザーごとのマニュアルをつけるという話も出てきているようで、すこしは認識が変わってきているのではないかと期待しています。しかし、それが実際に「使える」ものかどうかは、ふたを開けてみなければわかりません(本年初頭にβ版を試用する機会がありましたが . . . 。マニュアルやヘルプは制作が進むに従って精度が上がってくるものですから、それに期待です)。

とにかく現状のマニュアルとヘルプでは、ちょっと応用的なことをやろうとしただけで、すぐにお手上げ状態になってしまいます(仕方がないので、当研究所でも公式解説本を購入する羽目に陥りました)。ある程度使える人間ですらこの有様ですから、いわゆる初心者ユーザーがこのマニュアルとヘルプで何かできるとは到底思えないのです。
マイクロソフト社としてマニュアルレスでも使える製品を目指すのは結構なことですが、その過程ではしっかりしたマニュアルを提供して欲しいと感じます。Officeシリーズは95から97に至る過程で大幅に値上げしていることを考慮に入れると、今のマニュアルの品質には問題があると思います。

もし紙資源の無駄という問題を考慮して、必要な人だけが市販のオフィシャルマニュアルを購入すればよいと考えているのであれば、製品にオフィシャルマニュアル購入割り引きクーポンくらいは用意していただきたいものです。それが製品を提供する側の責務なのではないでしょうか。だいたい、公式マニュアル一式を揃えるだけで2〜3万円は軽く飛んでいくというのは異常としか言いようがありません。家電製品でこんなことやったら、ただじゃ済まないですよ(そこまで度胸のあるメーカーがあるかどうかも見物です)。

結局、これも独占企業の傲りということなのでしょう。競争状態にあるのであれば、こんな露骨なコスト削減策は通用しないはずです。

いかがでしたか?

最近はお客様に平気で暴言を吐く担当者を雇っているメーカーもあれば、90MB超のアップデータを平気でユーザーにダウンロードさせたりするメーカーもあるなど、メーカー側のやりたい放題が目に付きます。こういった問題の多くは、業界リーダーが節度のある振る舞いを続けることで自然と解決するのではないかと当研究所では考えています。というわけで、業界リーダーであるマイクロソフト社には、まともな製品とマニュアルを継続して提供してくれるよう、期待したいところです。

逆の言いかたをするならば、「業界リーダーのマイクロソフトがああいうやりかたをしているんだから、ウチも大丈夫だろう」という言い訳を許さないような、節度のある振る舞いを期待したいということです。お願いしますよ、ホントに。

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