マニュアル評価のポイント(後編)

2000年2月21日

前回に引き続き、マニュアルを評価する方法について考えます。

今回は学術的に正当な(厳密かつ煩雑な)手法ではなく、評価項目を絞り込んで効果的な評価をするための手法、つまり現場で役立つお手軽評価法について考えてみたいと思います(お手軽評価ということなので、ありがちなチェックリスト方式を元にしてみましょう)。

さて、チェックリストで効果的なマニュアル評価を行うためには、一体どうすれば良いのでしょうか?

部品品質の問題を切り離す

チェックリストの項目が多すぎますか?それではまず、マニュアルとしての品質と、部品としての品質のレベルを切り分けて考えてみましょう。
例えば、以下のようなチェック項目がチェックリストに入っている場合も多いかと思います。

  • 落丁/乱丁はないか(紙マニュアル)
  • リンク先は間違っていないか(電子マニュアル)
  • 仕様の数値が正確か
  • 誤字/脱字はないか

しかし、これらの項目で評価される問題は、マニュアルの質云々を問う以前の問題です。これらの問題を残したマニュアルは、メーカーが提供する商品の部品として備えているべき品質を満たしていない、不合格部品に過ぎません。要するに長さが足りないネジ、塗装がはがれて使えない部品と同じレベルというわけです。
確かにメーカー内の品質保証(Quality Assurance)部門ではこのレベルの問題を扱う必要が出てくるでしょうが、マニュアル制作/評価部門や外部の評価機関などでマニュアルの品質を評価する場合には、これらの問題を問うような項目はチェックリストから外すべきでしょう。
そうすることで評価リストはかなり整理できますし、項目数をしぼることでマニュアルの品質として評価すべきポイントがおのずと明確になってくるという効果も見逃せません。

ユーザーが実際に使うストーリーを重視する

それでもチェックリストの項目が多すぎて、何を評価の中心に据えればよいかわからない場合には、ユーザーの実際の使用環境をイメージしてみましょう。ユーザーはマニュアルをどういったときに、どういう目的で利用するのでしょうか? マニュアルがユーザーに対して果たさなければならない機能とは何でしょうか?
言うまでもなく、マニュアルの本質的な機能とはわからない情報を必要なときにすぐにユーザーに提供することにあります。したがって、マニュアルの評価に当たっては以下のようなポイントをなりよりも重視すべきでしょう(当然それぞれのポイントの下に、ブレイクダウンした個別の評価ポイントが含まれることになります)。

  • 必要な情報をすぐに探せるか
    情報に対するアクセス性の問題です(アクセス性には後述のユーザーの視点が重視されているかどうかも絡んでくるので、単純な問題と割り切るわけにはもちろんいきません)。
    したがって、目次構成などのトップレベルの情報からユーザーが目的とする情報をすぐに探せるかどうかが主要な問題になります。複数のマニュアルが付属する(または紙マニュアルと電子マニュアルの双方が付属する)製品の場合に「どのマニュアルに自分が欲しい情報が掲載されているのかが自然にわかるか」というような項目も、このポイントに含まれますね。
  • 探した情報はわかりやすく説明されているか
    説明手法のわかりやすさや文章、イラストといった、個々の要素に関する問題です。この部分を最重要視するかたが同業者にも多いようで、正直なところ閉口気味です。確かに重要であることは間違いありませんが、どんなに工夫してもまず必要な情報を探せないようでは . . . 。

これらのポイントを中心に評価することで、マニュアル本来の機能が果たされているかどうかを中心に評価することができるようになります。
確かに「楽しく見られるか」や「魅力的なマニュアルか」といったポイントも重要ではあるのですが、こうした点を重視したもののマニュアルとしての本質的な機能を欠いているという例もよく見かけます。これではかえってユーザーの怒りを買う可能性もあるので、「まずは基本をしっかりと」というところでしょう。

ユーザーの視点を重視する

ユーザーが実際に使うストーリーを中心とすることで大まかな情報のグルーピングに対しての評価ができるようになりますが、より細かいレベルを評価するにはどうすれば良いのでしょうか?
ここでもユーザーの視点を中心とすることで、ある程度の評価ができるようになります。実際に使う状況だけでなく、つまり、情報を提供するスタンスがユーザーの視点に立っているかどうかを重視すべきである、ということです。
実際には以下のようなポイントを重視すべきでしょう。

  • 情報の分類/グルーピングはユーザーの視点で行われているか
    ユーザーの発想で情報がグルーピングされているかどうかの問題です。
    よくありがちなのが、デバイスやメニューなどといった製品の仕組み側から情報をまとめる、というアプローチを取っているマニュアルですね。この場合、情報の分類がユーザーの発想に合っていないので、ユーザーにとって必要な情報が分散してしまっているということになります。グルーピングに論理性があればよいというものではなく、あくまでそれがユーザーの視点で行われているかどうかが問題です。
  • ユーザーの考えかたを反映した見出しタイトルを採用しているか
    見出しのつけかたの問題ですね。いくらユーザーの視点で情報をグルーピングしていても、見出しでそれとわからなければどうしようもない、ということです。この問題については以前にも触れていますので、ここでは詳しくは取り上げません。まあ機能名やデバイス名に依存した見出しタイトルをつけているようでは、アウトですね。
  • ユーザーの視線の移動に配慮したレイアウトを採用しているか
    レイアウトの問題です。これも以前に触れていますので、ここでは詳しくは取り上げません。
    まあこれは個々の情報のレイアウトについてどうこういうというよりも、マスターテンプレートの問題やデザイン方針全体の問題ということになるでしょうか。別に「余白を贅沢に使ったマニュアルしか許さん」というわけではありませんが、余白なしにびっちり情報が詰まっていることこそ善である、というスーパーのチラシ的な発想はいい加減止めてもらえないでしょうかねえ(呆)。

思いつくままにあがった項目が含まれているチェックリストも、ここまであげたような方法でかなりすっきりしてきたのではないかと思います。この状態のチェックリストでマニュアルを評価することで、実際のマニュアルが抱えているであろう問題のうちの大部分は明らかになってくるはずです。

ここまでやった上で効果を発揮するユーザーテスト

マニュアルの評価というとすぐにユーザーテストという話になりがちなのですが、当研究所としてはユーザーテストの前にこの程度の評価は行って当然であると考えます。
実際にユーザーテストを行う以前にこれらの評価で問題が解決してしまうことも多いでしょうし、実際に流通しているマニュアルを見てみても、ここまでのレベルで問題を抱えているマニュアルが多すぎます。自分たちがこうしたレベルにあることを自覚せずに「ユーザーの声を重視しました」「ユーザーテストで問題を解決しようと思います」なんぞ、100万年早いと言わざるを得ません(勿論やらないよりは良いのですが、順序を間違えているようでは効果半減です)。

ユーザーテストの前にマニュアルの評価をしっかり行うことで、ユーザーテストで得られた結果をより効果的に分析することもできるようになります。マニュアルを評価する訓練を積むことで、評価の視点をこれからのマニュアル制作に生かせるようにもなるでしょう。
そのためにもマニュアルを効果的に評価するにはどうすれば良いか、マニュアルに携わるすべてのかたにもっと考えていただきたいと思います。

いかがでしたか?

ここまで手の内を明かして大丈夫か?」という声も聞こえそうですが、大丈夫です。この辺はあくまで基本編ですので(笑)。実際にマニュアルの評価/改善業務をご依頼いただいたときには、これらのポイントだけでなく隠し味をいろいろと加えており、お客様にも高く評価していただいております。

というわけで前回/今回の研究発表で、「自分のところのマニュアルを評価してもらおうかな?」と興味を持たれたかたは、ぜひ当研究所までご一報ください。

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