iPhoneの発表を契機として、携帯電話のUI改善をテーマとした話はいろいろと出てきましたが、携帯電話がWebコンテンツに与える影響という観点の話はほとんどなかったように思います。この問題について昨年から考えていたことを少し整理して、皆様のご意見を伺ってみたいと思います。

といっても、多分それほど目新しい話はなく、おそらく車輪の再発明ばかりでしょうけれども...。まあ当たるも八卦、当たらぬも八卦(笑)

携帯電話を巡る気になる傾向、そして経験

携帯電話を巡る環境として気になっているのは、以下のような事象です。

  • 一番長く触れる情報機器が携帯電話になっている:携帯電話でメールを頻繁にやり取りするかどうかで差が出てくると思いますが、仕事で長時間PCの前に座っている人以外はこうなりますよね。
  • 携帯電話の利用者数がPC利用者数を凌駕する勢いにある平成18年度版の情報通信白書によると、インターネット利用端末の種類としてPCのみを使用するユーザーが18.6%(1585万人)に対して、各種携帯電話のみを使用するユーザーが22.5%(1921万人)という状況です(ちなみにPC/各種携帯電話の併用が57%(4862万人)と、過半数を占めています)。もちろん情報通信白書中での「インターネット」サービス定義に違和感を感じる人もいるとは思いますが、データとしてこのような現実を押さえておく必要もあるかと思います。
  • 携帯電話の高機能化により、Webサイト閲覧の障壁が下がっている:PC向けのサイトを閲覧できるWebブラウザの搭載およびパケット定額制の導入が進んできていることもあり、「携帯電話ユーザーが通常のWebサイトにアクセスすることすらできない」という状況は変わりつつあります。ただし、現状の携帯電話の表示&操作デバイスでは、Webサイト閲覧にかなり困難が伴うのも事実です(この操作デバイス問題の解決例を示したのがiPhoneのUIです)。現状のWebサイトがPC環境での閲覧を前提として設計されていることも、携帯電話でのWebサイト閲覧にあたっての障壁の1つと言えるでしょうです。
  • 携帯電話用の検索サービスが充実してきている:前述のWebブラウザの標準搭載とあわせて、いわゆる公式サイト縛りからの脱却という携帯電話キャリアの戦略転換が見られます。検索サービスが利用できれば、ユーザーが気軽に通常のWebサイトを検索・閲覧するようになるのは必然的な流れです。最近急に増え始めた「○○で検索!」という広告も、携帯電話による検索サービスの利用&検索結果のWebサイト閲覧という流れを加速させるかもしれません。
  • 主体的に「PCを使わない」ユーザーが出てきている:個人的な話で申し訳ありませんが、そのようなユーザーを周りでちらほら見るようになりました。決してPCを使えない/使いこなせないということではなく、個人の情報端末としてPCは不要であると判断する人達です。(飲食店を探すなどの用途での)Webサイト閲覧も含め、結局個人用途のコミュニケーションツールとして使用する分には携帯電話で十分、という判断なのでしょう。

起こり得る変化と前提条件

これらの事象を踏まえると、以下のような変化が起こって来るのでは?と想像することも可能です。

  • 個人情報端末において脱PC化が進む:個人が情報端末(メールおよび簡単な情報検索を含むWebサイト閲覧)に期待している機能が携帯電話で実現できてしまう以上、「わざわざPCを使う必要・メリットはない」と判断するユーザーは今後増加する一方でしょう。また、「仕事PCの持ち出し禁止」という流れも、一部のユーザー層には影響が大きいのではないでしょうか。
  • 携帯電話を利用したWebサイトの閲覧が一般化する:個人情報端末という観点では、メールとWebサイト閲覧という機能はセットで考えるのが自然です。その上で、個人のメール端末としての地位を携帯電話がしっかり握っている以上、Webサイト閲覧もいずれは携帯電話で行うことが自然になるでしょう。

ただし、この変化が現実のものとなるには、以下の問題が改善されていることが条件となります。

  • デバイス側の問題:高解像度化、大画面化してきたとは言え、やはり現状の表示デバイスでWebサイト閲覧を長時間続けるのは困難です。またそれ以上に、マウスなどに代表される任意の位置を指定できるポインティングデバイスを持たない携帯電話では、現状のWebサイト閲覧は操作性の面でもかなりの困難が伴うことは否定できません(ポインティングデバイスを持つ製品も最近発表されたようです)。あとは全体的にバッテリーの持続時間が(以下略)
  • コンテンツ側の問題:前述のデバイス側の問題と表裏一体になりますが、デバイス側だけでの改善だけでなく、コンテンツ側の改善も必要になってくるでしょう。携帯電話の特性に配慮したコンテンツおよび情報設計、ナビゲーションを検討する必要があります。その際、テキストライティングレベルでの最適化や文中リンクの使用方法、Webサイトへの誘導方法といったあたりも忘れないで欲しいところです。

これらの問題が解決されれば、間違いなくユーザーの行動が変化します。デバイス側の問題に関しては、iPhoneという解決例が商品レベルで提示されたこともあり、デバイス側の改善ピッチは速まることになるでしょう。

あとはコンテンツ側がどう動くかです。コンテンツ側の動きによっては、この2〜3年で状況は大きく変わるはずです。携帯電話専用サービスではない一般のWebサイトであっても、携帯電話による閲覧ユーザーがかなりのシェアを獲得するのではないでしょうか。

変化が現実になった場合は

さてこのような変化が現実となった場合の話ですが、無意識のうちにPCの存在を前提としていたWebサイト閲覧のようなサービスでも、実際の利用者の姿が変わってくることになります。したがってコンテキストを踏まえたWebサイトの全体設計のみならず、個別ページに関してもこれまでとは異なった形での最適化が要求されることになるでしょう。

例えばCMSを利用する場合でも、大元のコンテンツ作成の際に、携帯電話への最適化が優先されるようになるかもしれません。(携帯電話用の専用サービスや専用UIを用意しているものを別として)現状のWebサイトはPC環境での閲覧を前提としたものがほとんどですが、今後はメーカーの製品情報などに関しても、携帯電話での閲覧が前提となる可能性もあります。製品ジャンルによっては、すでにそういう動きがあってもおかしくないでしょう。

このような変化に対応する上で問題となりそうなのは、「携帯ユーザーはリテラシが低く、PCユーザーはリテラシが高い」「WebサイトはPCで閲覧することが当然」「家庭内にPCがあるのが当然」というような、いわゆる情報強者の思い込みでしょう。特に情報の提供側に回っている企業やコンテンツ制作者にこの傾向が強いのですが、このような思い込みは百害あって一利なしです。気が付いたらPCレスが当たり前の世界に変わってしまっていて、今現在の情報強者だけが置いてきぼりにされていた...ということがないようにしなければなりませんね(笑)

そもそも今のPCの姿なんて、せいぜいここ20年の話です。ひょっとするとPCの存在など、コンテンツ制作や(広義の「仕事」を含めた)情報加工以外の用途では不要となる...のかもしれません。機密保持や内部統制などを理由として持ち帰り仕事の制限が厳しくなると、自宅にPCを置いておく意味はさらに減るでしょうからね(ホワイトカラー・エグゼンプション(怖)が導入されたり在宅勤務制が拡がると、逆の流れになるかもしれませんが)。

おまけ:ゲーム機によるWebサイト閲覧

最後にゲーム機によるWebサイト閲覧についてですが、こちらに関してはそれほど留意する必要はないと考えています。

Webサイト閲覧という行為はプライベートに属するため、個人が閲覧環境(表示デバイス=TV)を占有できる環境になければ、ゲーム機でWebサイトを閲覧しようとはしないでしょう。占有できることを前提としたデバイス(個人PCや携帯電話)で閲覧しようとするのが自然ですし、ブックマークなどの継続性やメールの受信環境との一体性などを考慮しても、複数のデバイスを頻繁にスイッチして閲覧することはユーザーにメリットが少なく、現実的ではないと思われます。

その意味で、wiiチャンネルがプライベートな情報ではなく、家庭内で共有できる/共有することが自然な情報を中心にセレクトしているのは、インターネットTVという発想から抜け出せない家電メーカーと比較して正しい判断だと言えるでしょう。共有されることを前提としたwiiチャンネルのコンセプトは、リビングルームにおけるWebサイト閲覧に適したサービスとして、このまま定着する可能性もありそうです。

いかがでしたか?

(いつものことながら)あえて極論に振ってますが、別にPCの世界がなくなると主張している訳ではありません。それに閲覧対象となるWebサイトの性格によっては、携帯電話によるWebサイト閲覧シェアの増加なんて関係ない、というところも当然出てくるでしょう。基本的には、情報の提供者側が判断すべき事項かと思います。

最後にもう一点踏まえておくべきキーワードとしては、今更感がありますがFMC(Fixed Mobile Convergence)でしょうか。デバイス側の進化によっては家庭用PCの市場が侵食され、Webサイト閲覧シェアが大きく動く可能性もあります。ただFMCも「いつになったら...」というキーワードなので、実際に動き始めてから考えるということで十分かもしれません。

いずれにせよ、まずは高機能化した携帯電話に対してどう向き合うのか?が最重要課題です。この2〜3年のうちに情報の提供者側/コンテンツ制作者がどのような答えを出すのか、注目してみたいと思います。

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