電子メディアでの読みやすさを考える
日本語のプロポーショナルフォント
Webページを制作するときは、当然いくつかの環境でチェックを行うわけですが、今日はそこで気づいたことを取り上げたいと思います。
Windows環境でWebブラウザの標準フォントに設定されていることの多い、MS Pゴシックは読みにくいと思ったことはありませんか? 私見ですが、とにかく文字が詰まって表示されるので、読みにくいことこの上ありません。
詰まって表示される原因は、欧文のみならず日本語の空き間隔を一定にして表示するという、日本語プロポーショナルフォントの仕様にあるのではないかと当研究所では睨んでいます。
日本語を組むときは、文字の重心間隔が自然に一定になるように配置される、べた組みが基本と言われています。それに対して、文字の空き間隔を一定にすることを考える、詰め組みと呼ばれる組みかたもあります。
さて、日本語での可読性を優先するのであれば、重心間隔を一定にしたべた組みが適していると言われます。日本語は文字密度の濃淡によって読みやすさが保たれている(かなは漢字に比べて画数が少なく、文字も小さい)ので、詰め組みによって濃淡を均一化してしまうと、可読性が落ちてしまうからです。
しかし、広告や雑誌のタイトルや見出し文字など、見ための美しさを優先したいときは、詰め組みが適していると言われます。見た目優先で判断すると、濃淡の差はバランスの悪さに直結していることが多く、それを回避するために詰め組みを行うというわけです。
見た目が良くなる代償として可読性の問題が生じるため、本文の文字組みに関しては、詰め組みは邪道であるとする人が結構いるようです。
欧文では組んだ文字の濃淡に差がなく、均一なグレーに見えることが読みやすいとされているようです。そのために、欧文フォントは文字間隔が一定になるように設計されているのであり(プロポーショナル)、確固とした文化的な裏付けがあるわけです。
では、日本語にはプロポーショナルフォントは必要なのでしょうか? 当研究所は、欧文部分だけプロポーショナルであれば十分なのではないかと考えます。特に、画面上で文字を読ませるために使用するフォントとしては、ただでさえ可読性が落ちるプロポーショナルフォントを採用すべき理由はないはずです(基本的にプロポーショナルフォントで指定されたフォントで本文を表示するという仕様自体、Webブラウザが海外で開発されたソフトウェアであることを感じさせます)。
このような理由で、 少なくとも「MS P ゴシック」は、Webブラウザに使用する初期設定フォントとして失格ではないかと思います。Windows2000までに、フォント自体の改良に期待したいところです。
ちなみにプロポーショナルでないフォント=等幅フォント、というわけではありません。フォントの世界は難しいですね(笑)。 (1999.01.20)
表示デバイスの高解像度化とアンチエイリアス
先日開催されたLCD/PDP International 2000で、IBMがQUXGA(3,840×2,400ドット)の解像度を持つTFT液晶ディスプレイを展示していたようです(PC Watchの当該記事)。当研究所としては、このディスプレイの最大解像度数よりもppi(pixel per inch、1インチあたりの表示ピクセル数)の数値が気になりました。なんと200ppiオーバーです。ちなみに現在のノートPCで多く採用されているXGA(1,024×768ドット)の解像度を持つ14.1インチ液晶ディスプレイでは、約91ppiになります。
これが300ppiクラスまで向上すれば、一昔前のレーザープリンターの出力解像度と変わらない品質の文字を、ディスプレイ上で読めるようになります。ディスプレイ上の文字の読みやすさは、最大解像度よりもppiの向上に依存しますので、電子出版の未来という意味で、かなり期待できることになりそうです。
さて、ディスプレイのppiがここまで向上してくると、表示されるテキストは現在の白黒2階調ではなく、アウトラインフォントにリアルタイムにアンチエイリアスをかけたものが中心になってくるのではないかと考えられます(PDFファイルを表示したときのように、文字やビットマップ画像のエッジをなめらかに処理することを、アンチエイリアスと呼びます)。
ここで気になるのが、現在Public Betaの段階にあるMacOS Xです。MacOS Xでは、リアルタイムにアンチエイリアスをかけたアウトラインフォントで文字が表示されます(参考画像)。デベロッパーには、アプリケーションなどの各種アイコンも128×128ピクセルのものも用意するよう伝わっているという話も聞きますので、将来の高解像度表示デバイス時代も想定に入れて、表示システムを設計しているのではないかと思われます(アイコンはベクターベースのアウトラインフォントと異なり、ラスタライズされたビットマップデータであるため、ppiが向上すると32×32ピクセルでは小さすぎて話にならなくなります)。
MacOS X自体のデキについてはPB段階ということもあり諸説入り乱れていますが、こうした面から評価することも面白そうですね。(2000.10.31)
それってClearTypeじゃないの?
昨日シャープから発表のあった携帯電話用の表示技術(プレスリリース)なのですが、既視感がありありです。どこで見たのかを考えているうちに、思い出しました。これってMSのClearTypeと同じ路線の技術ですよね。特許絡みの問題は解決済みなのでしょうか。大丈夫かと思いますが、少し心配です。
しかし携帯電話の表示フォントにアンチエイリアスが必要なんでしょうか。ClearType系の技術は、カラー液晶ディスプレイの横方向の解像度を擬似的に3倍に増やすものですが、白黒2色表示と比較した場合、文字表示の過剰なクッキリ感は失われそうに思えます。メーカーで想定もしていないような使用状況が飛び出すのが携帯電話ですから、こうした最適な環境での文字の読みやすさを提供する技術が、デバイスの使用環境に適合するものであるかどうかは、これからの市場の反応と各社の動向を見極めるしかなさそうです。
ところでこの技術、携帯電話だけに限定されるとは思えません。おそらくZaurusなどの携帯端末にも突っ込んで、各社が現在準備中の電子ブックビューワーの要素技術としても機能させるつもりではないでしょうか。何となくZaurusとPocketPC、電子ブック専用端末の場外戦が、ここでも繰り広げられそうな気がします。願わくばユーザー不在の争いになりませんように。(2001.05.31)
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