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情報大工のひとりごと

雑感いろいろ(書庫)(8)



事業者の狭間で揺れ動く用語____見出し罫線____

マニュアル制作の立場にいるとよく見えるのですが、一般消費者がインターネット接続に必要な設定をする際の意外な難関、それはプロバイダや通信機器メーカーによって用語がバラバラ、という奴なのです。例えばA社では「ダイヤルアップパスワード」、B社では「PPPパスワード」、C社では「接続パスワード」と同じ用語に異なった名称をつけています。同じものが様々な呼称を持っているのですから、サービスを利用するユーザーは混乱するばかりです。以前TC系のMLでこの問題が話題になったこともありましたが、解決策に向けての妙案がなかなか存在しないというのが頭の痛いところです。

簡単な解決策が存在しない理由としては、包括的な業界団体の不在がまずあげられます。事業領域の特性か、ネットワーク絡みのサービスや製品を巡っては、ベンチャー系や海外事業者の日本法人など様々な背景を持つ種々雑多なプレーヤーが市場に参加しています。そのため、事業者を包括して用語の統一を図ることのできる機能を持つ団体が存在しないように見受けられます。ある程度の統一がとれている用語でも、そういった用語選定が存在することを知らない(積み重ねがない)プレーヤーが、用語を混乱させている面もあるでしょう。市場の状況を踏まえないローカライズによる問題も大きいのではないかと思われます。

これだけでは後発参入組だけが悪く思えるかもしれませんが、先発の大手どころも責任はかなり大きいのです。大手どころの一番の問題は、他社模倣を良しとしない文化にあります。ほとんど同じなのに小手先だけ字面を変えるなど、変な部分で自社プライドを大事にする習慣です(知的財産権絡みで安易に模倣できないということもあります)。さらに、最近は機能名に対する商標申請など、悪い意味で用語を自社内へ囲い込む傾向が目立つように思えます。

サービスなり製品なりがスタンドアロンで使用されるものであれば、それでも良いでしょう。ですが、ネットワークなど様々な事業者が入り乱れて様々な製品やサービスを提供する領域であれば、わかりやすく適切な用語を積極的に共有するという文化が必要なのではないでしょうか。自社のプライドにこだわって難解であるという印象を消費者に与えるよりも、現状はまだまだ市場全体のわかりやすさを向上させるべき時期だと思うのです。特にこれからはホームネットワークだ、ユビキタスコンピューティングだとネットワークを利用したサービスが全盛を迎える訳ですから、一昔のAV製品レベルとまではいかなくとも、それなりのわかりやすさを市場全体で実現してほしいと切に願います。

そういう意味で、先日の「ルータベンダー4社『日本ホームゲートウェイ連絡会』発足へ」(BroadBand Watch)というニュースは、業界団体による用語統一の第一歩として期待したいところです。 (2002.06.06)




手書きシステムに求められる機能____見出し罫線____

MicrosoftのTablet PCのリリースが近付き、関連記事も増えてきました。

現状のキーボード+マウスがディスプレイに表示されているオブジェクトを間接的に操作するのに対して、タブレットとディスプレイが一体化しているTablet PCでは直接操作が実現できることになります。これは言わば表示デバイスと操作デバイスが紙と鉛筆の関係に近くなることですから、今後の情報デバイスの一般化を考える上で、大きな強みとなるでしょう。

ですが、情報デバイスは紙と鉛筆の関係を実現するだけでは困るのです。

PCのアプリケーションと異なり、入力様式に制約されずに自由に筆記/表現できることが手書きの一番の利点で、特に会議などで問題構造や関係図を速記するときなどは、ボードやメモ用紙の方がノートPCよりも圧倒的に有利です。しかし、取ったメモをすぐに(テキストやベクターデータとして)再利用できないのが泣きどころ。ですから、手書きシステムを採用する情報デバイスには、手書きの軽快で自由な感覚を維持しつつ、取ったメモを必要に応じて編集可能な情報として再利用できることが一番に求められるのではないかと思うのです。

ところが現状では、PDAなどを含めて一般的に「文字入力モード」で書かれたものはテキスト扱い、それ以外の自由入力モードで描かれたものは画像扱いになるケースが多いようで、評価記事を見る限りではTablet PCもこの例に漏れないようです。従って自由でありながら情報の再利用性も確保するという、上記の要求機能は実現できていないことになります。これは認識精度のように実装レベルの問題ではなく、根本的なコンセプトの問題です。

手書きをサポートするシステムで、このような書かれた(描かれた)オブジェクトをシステムがどのように認識/管理するのか?という問題は見過ごされがちなのですが、一般層までに浸透する「使える」手書き入力システムを今後構築しようとするのであるならば、この問題を素通りすることはできません。この問題にきちんと触れている評価記事も出始めているようで、ベンダー各社が今後どのような解決策を用意するのか、楽しみに見守りたいところです。(2002.09.09)




直接操作時代のWebデザイン?____見出し罫線____

(前回Tablet PCを取り上げたついでに)現在のWebサイトは、マウスやカーソルキーなどといった間接操作デバイスによって操作されることを前提にし過ぎているように思えるのです。これだけでは意味が分からない方がほとんどだと思いますので、ヒントを1つ。直接操作しか存在しない銀行ATMと多くのWebサイトの違いは、一体どこにあるのでしょうか?

その違いは、クリック対象オブジェクト間の間隔、つまり誤操作を防止するための考えかたにあります。Webサイトでは誤ったオブジェクトをクリックしても、復帰が比較的容易であることに加えて、現在選択しているオブジェクトをロールオーバーで明示していることが多いため、(不適切なラベリングによる誤認を除いて)誤った箇所をクリックするという操作をしにくいのです。つまり、「選択(ポイント)→決定(クリック)」という間接操作の利点が出ている訳です。

これに対して「選択=決定」という直接操作を前提とするATMには、「選択されているオブジェクトのロールオーバー」などという観念は存在しませんから、押し間違えのないようにオブジェクトの配置間隔にはかなり神経を使います。ATMでは操作デバイスが指(笑)なので、間隔を広めに確保しておかないと誤操作を誘発するという事情もありますが、実は他にも原因があります。

直接操作を行うデバイスの表示エリアにはタッチ検出用のシート(PC Watchの記事によるとTablet PCでは背面配置のようですが)に加えてガラスなどでデバイス表面を保護するのが常ですから、どうしてもユーザーが視線で把握するオブジェクトの位置と、実際にデバイスに触れる位置(デバイス側で認識される位置)にズレが生じることになります。直接操作系の機器ではこのような視差による誤操作対策が非常に重要であり、そのためにもオブジェクトの配置間隔に十分注意を払う必要があるのです。

ここで話を元に戻すと、現在のWebサイトのデザインは、間接操作系のデザインに振れ過ぎているように思えます。特にFlashに多用しているサイトに顕著ですが、ロールオーバーなしでは成立しないナビゲーションがあまりに多すぎませんか? もちろんロールオーバーを捨てろとは言いませんが、TabletPCをはじめとする直接操作系のデバイスが今後増加するならば、この辺の問題に真剣に対処せざるを得なくなるでしょう。(直接操作を主体とする)組み込み機器のフロントエンド標準UIの地位をFlashMXが狙っていることも考えると、特にFlash使いの方々にこの辺の事情を頭に入れておいて頂きたいところです。

このコーナーにしては異常に長くなってしまいましたが、直接操作系UIデザインの感覚がWebデザインにも活かされるべきでは?というお話でした。(2002.09.17)



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