マニュアル評価のためのガイドラインやチェックシートにもさまざまな種類がありますが、特に企画構成に関する部分が弱いものが多いようです。また、評価の前提が曖昧であるために、評価全体の信頼性について疑問符が付けられてしまうことも多々あります。
ここでは、有限会社文書情報設計がこれまで使用してきた評価のためのフレームワークを整理して、マニュアル評価にあたって押さえておくべき観点やチェックポイントとして、まとめて公開します。ここではいわゆる取扱説明書・操作説明書の評価を対象としていますが、一般的な業務マニュアルに応用できる情報も多いかと思いますので、適宜ご活用ください。
ポイントごとの詳細な解説も、少しずつ追加していく予定…です。また、このフレームワークに対するコメントや追加すべきポイント、そして評価業務のご依頼!などありましたら、お気軽にどうぞ。
はじめに
評価の前提
取扱説明書で実現すべきポイントとは
取扱説明書の目的を明確にする。
メーカー視点
(メーカーが取扱説明書を提供することで実現したい目的)
ユーザー視点
(ユーザーが取扱説明書を読むことで実現したい目的)
取扱説明書を利用する想定ユーザー
「製品自体のユーザー」と「取扱説明書を利用するユーザー」を分けて考え、前提として明確にする。
製品自体のユーザー
(製品自体がターゲットとするユーザー層)
取扱説明書を利用するユーザー
(製品ユーザーの中で実際に取扱説明書を読むと想定されるユーザー層、ユーザー層によって読む箇所が異なることが想定される場合は条件を明確にする)
取扱説明書を利用するユーザーのメンタルモデル
対象製品にどの程度の理解があるのか、製品の挙動や操作に対してどのようなイメージを保持しているのかを明確にする。
(例:どのような機能を持っているのか、どのような挙動をするのか、どのような準備、設定、操作が必要であるのか、そのためには何を使うのか、など)
取扱説明書閲覧コンテクストの確認
ユーザーがどのような理由・文脈で取扱情報を必要とするのか、利用状況とあわせて明確にする(取扱説明書の利用状況)。
(閲覧コンテクスト1)
(当該コンテクストで必要とする情報)
(閲覧コンテクスト2)
(当該コンテクストで必要とする情報)
(閲覧コンテクスト3)
(当該コンテクストで必要とする情報)
……
評価対象および評価の方法
評価の対象
以下の同梱物を対象とする。
(評価対象マニュアル類を記載)
他社競合製品比較対象
(必要に合わせて記載)
評価の方法
- 評価担当者によるヒューリスティック評価とし、評価担当者の品質レベル判断により「A:良い〜E:悪い」のスコアを付与する。
- ユーザーの閲覧コンテクストに配慮しつつ、以下の大きな観点から評価する。
- 評価項目ごとに競合他社製品との相対評価・所見を記す。
表記上の注意
本報告書中では、同梱物に対して以下の略称を使用する。
(評価書類中で略称を使用する場合は、正式名称と略称を記載)
観点1:企画構成
1-1. ユーザーに提供すべき情報全体の区分は適切か
1-1-1. 冊子の分割基準は適切か
- 複数冊子・媒体で情報を提供する場合に、分割基準に必然性が感じられること。
- 複数冊子を併用する場合、一般的には導入情報(製品を利用できるようにする)および最低限の基本操作までは導入ガイドに類する冊子、それ以外の情報は取扱説明書を利用する、というのが基本となる。
1-1-2. それぞれの媒体に含まれている情報の内容を正しく推測できるか
- 複数冊子・媒体で取扱情報を提供する場合に、構成を見ただけで(ユーザーが)自分に必要な情報がどこに含まれているのかを理解できること。
1-2. ユーザーニーズを元に情報は構成されているか
1-2-1. 閲覧コンテクストに配慮した構成を採用しているか
- 冊子内の情報構成について、①情報のグルーピング基準、②グルーピングされた情報のラベル(見出しタイトル)表現の両面でユーザーの閲覧コンテクストに配慮していること。
1-2-2. 情報の配置順は適切か
- ユーザーが必要とする順序に従って、情報が配置されていること。
- 順序的に目立つ場所に配置できない情報であっても、ユーザーの閲覧コンテクスト上重要な情報については、目に止まるようにする構成上の工夫がされていること。
- メーカーが伝えたい重要度だけで情報の配置順を決めないよう、注意が必要である。
1-2-3. 必要な情報は網羅されているか
- ユーザーの閲覧コンテクストを踏まえて、取扱説明書内にユーザーが必要とする情報が記載されていること。
- 製品の仕様説明に必要な情報ではなくても、ユーザーが必要とする周辺情報はあわせて提供することが望ましい。
1-3. 情報は適切に構造化されているか
1-3-1. 目的や意味、種類ごとに情報は構造化されているか
- 長文テキストを書き連ねるのではなく、目的や意味、種類ごとに見出し単位・箇条書きで構造化されていること。
1-3-2. 情報のグルーピング基準はわかりやすいか
- ユーザーの閲覧コンテクストを踏まえていること。
- ユーザーが理解できる基準を採用していること。
- 誤解の余地が少ないこと。
1-3-3. 基本的な階層設計は適切か
- 階層が4段階+サブ情報の最大5階層に限定されていること(情報量によっては、章見出しを加えた6階層)。
- ユーザーが実際に必要とする情報が下位階層に埋没していないこと。
- ユーザーが現在の階層を常に把握できること(どこを読んでいるのか、わからなくならないこと)
- 階層の上下関係に誤解を生じさせないこと(→視覚デザイン)。
観点2:テキスト表現
2-1. 見出しタイトルはわかりやすいか
2-1-1. 見出しタイトルだけで内容を正しく推測できるか
- 含まれる情報の内容が容易に想像できる名称であること。
- 含まれる情報の内容を正しく反映したものであること。
- 類似情報との区別が容易なこと。
2-1-2. ユーザーニーズ/ユーザータスクを踏まえた見出しタイトルを採用しているか
- ユーザーニーズやユーザータスクなど、閲覧コンテクストを踏まえた表現を使用していること。
- 制作者がユーザータスクを意識することで、タスクベースでの情報設計を意識するという副次的な効果もある。
2-2. 文章はわかりやすいか
2-2-1. 文章表現は適切か
- 文章が簡潔であること。
- 読みやすいこと。
- 説明内容が正しく伝わること(誤解の余地がないこと)。
- 用語や表現が一貫していること。
2-2-2. わかりにくい用語に対する配慮はあるか/一般的な用語を使用しているか
- 専門用語や独自機能用語、略語などは、一般的な名称と併記されていること。
2-3. 説明の方法は適切か
2-3-1. 操作説明はわかりやすいか
- 操作の目的と操作の手順が記載されてること。
- 「何をするのか」(操作内容)「その結果どうなるのか」(操作結果)が明確に把握できること。
- 必要な補足情報が適切な位置に記載されていること。
2-3-2. 対象に合わせた適切な説明方法を使用しているか
- 文章やイラスト、イラスト中の説明テキストなどの説明手法を、説明対象に合わせて効果的に使い分けていること。
- 箇条書きや表組による表現を適切に使用していること。
2-3-3. 注意情報の提供方法は適切か
- 問題の発生条件およびユーザーにどのような不利益があるのかを明確にすること。
- 重大な問題に関連する注意は、操作説明の前に記述すること。
- 注意情報は通常の情報や補足情報と混在させずに、独立して記述すること。
2-3-4. 問題発生時の対策情報はわかりやすいか(トラブルシューティング)
- 症状と原因、対策が明記されていること。
- 製品自体の問題か、他製品や環境依存の問題なのかを早急に切り分けられること。
- 自己解決が可能なものかどうか、早期に判断できる情報が記載されていること。
- 問題の切り分けが複雑な場合は、チャート表現を使用するなどしてユーザーを支援することが望ましい。
観点3:視覚表現
3-1. 基本デザイン設計は適切か
3-1-1. ブランド価値にふさわしいデザイン品質を保持しているか
- 筐体デザインやカタログ、Webサイトなどで形成しているブランド価値、製品イメージに相応な印象を与えられること。
- 製品全体のユーザーエクスペリエンスの観点から、製品付属品であるマニュアルにも相応のデザイン品質が求められる。
- マニュアルのデザイン品質に問題があれば、当該製品のユーザーエクスペリエンスだけでなく、ブランドそのものに対する印象の悪化につながる。
3-1-2. 可読性に問題はないか
- 可読性の高い書体を使用していること。
- 文字サイズや行間、行長のバランスが適切であること。
- 自然な視線の流れで読めること。
3-1-3. デザイン処理は一貫しているか
- 強調表現などの修飾表現の方法について、冊子全体で一貫していること(例外処理を濫用しないこと)。
- 例外処理がある場合は、意図した効果を発揮していること。
3-1-4. 重要な情報が重要なものとして伝わるか
- 重要な情報とそうでない情報が、明確に区別できること。
- 重要度の高低を混乱せずに把握できること。
- 本来は重要度の高低を読み手に意識させないことが望ましい(重要度の肯定を無理に表現するため、過剰なデザイン処理の原因となるため)。
3-2. イラスト・画像はわかりやすいか
3-2-1. 説明のためのイラスト・画像として適切か
- イラスト・画像が何を説明するためのものか理解できること。
- イラスト・画像が操作前/操作後のどちらを示すものか明確であること。
- イラスト・画像中の指示・行為を示す要素(行為の方向を示す矢印や引き出し線)が明確であること。
3-2-2. イラストの作成方法は適切か
- 形状を正しく把握できる範囲で線の数を減らした、スッキリとしたイラストであること。
- ユーザーが操作時に対象を眺めるアングルで描画されていること。
- 冊子の目的によっては、テクニカルイラストではなくデフォルメしたイラストを使用すること。
3-2-3. ビットマップ画像の作成方法は適切か
- 画像の内容が判別/判読できるものであること(過度の縮小・画素数の間引きによる劣化は避けること)。
- 必要に合わせて、説明上で強調したい箇所が明示されている(トリミングされている)ことが望ましい。
観点4:検索性
4-1. 検索のための仕組みを用意しているか
4-1-1. 目次から必要な情報を探せるか
- 目次を用意していること。
- ユーザーの目的とするタスクが目次から探せること(見出しタイトルと記載する階層数が適切であること)。
- 情報量が極端に多い場合は「一律で第x階層まで記載」とするのではなく、情報の種類に合わせて、記載する情報の階層数を調整することが望ましい。
4-1-2. 索引から必要な情報を探せるか
- 索引を用意していること。
- ユーザーが想起する語句を索引項目として用意していること。
- 語句のみの索引項目では検索性の向上に限界がある場合は、ビジュアルインデックスなどの視覚化された検索手段を併用することが望ましい(例:画像に適用する特殊効果は、名称よりも適用結果の一覧を示した方がわかりやすい)。
- ユーザーの想起する用語の表記揺れを考慮して、必要に合わせて同一情報に対して複数の索引項目を用意することが望ましい。
4-1-3. 検索性を向上させる視覚的な工夫がされているか
- 表紙デザインとの連係や小口インデックスなど、検索を支援する視覚的な工夫を備えていること。
- 章の分割位置でレイアウトを変更したり、ポイントとなるイラストを大きく掲載するなど、「パラパラめくりながら必要な情報を探す・気になった情報を見つける」行為を支援する工夫を備えていること。
- 「探しにくい」とユーザーが感じないことが重要である。
4-2. 漠然とした疑問から情報を探せるか
4-2-1. 問題発生時の対策情報をすぐに探せるか
- トラブルシューティング情報をすぐに検索できること。
- 複数媒体に展開している場合、どの媒体にトラブルシューティング情報が含まれているかユーザーが悩む必要がないこと。
- ユーザーの閲覧コンテクスト上、ユーザー層に関わらずトラブルシューティング情報の検索性は非常に重要である。
4-2-2. 製品の外装やUI要素から情報をすぐに探せるか
- 「このパーツの名称および機能は何か?」という、漠然とした疑問から適切な情報を入手できること。
4-2-3. 機能の漠然としたイメージから情報を探せるか
- 正確な機能名を知らなくても、迷わずに適切な情報を入手できること。