2000年8月17日
以前から気になっていたのですが、情報の論理構造を重視して情報をグルーピングしたり、構成していくというトレーニングを行う場が世の中に少ないように思えます(情報構造を理解して書くという技術は物事の本質を考える習慣に直結するでしょうから、本来こうしたトレーニングは学校教育で行われてしかるべきと考えています)。
今回は「文書自体の目的やターゲットユーザーを明確にする」とか「本質的な情報と付加的な情報を見分ける」といったレベルの作業を無視して、情報の構造を重視して情報をわかりやすく構造化するにはどうすれば良いか、ということに絞って考えていきたいと思います。
様々な場所でいろいろな文書を見る機会が皆様にもあるかと思いますが、一体何を言いたいのかさっぱり理解できない文章を見かけることも多くありませんか? では、なぜ「さっぱり訳が分からない」のでしょうか? 原因としては、以下のような理由が考えられます。
理解できない文章の原因として3つの問題をあげてみましたが、一般的に見られるわかりにくい文章の原因としては、最後の問題(論理構成が無茶苦茶)が一番多いのではないかと思います。個々の文章自体の意味は取れるんだけれど、結局何を言いたいわけ?という報告書や提案書、マニュアルなどは、こうした問題を抱えていることが多いのではないかと思います。
こうした場合では、いわゆる表現技法の勉強をしてもどうしようもありません。個々の文章ではなく、文書全体をまとめるための考えかたや構成法に問題があるため、付け焼き刃的な対策ではどうしようもないのです。
ではこうした考えかたを身につけるには、一体どういう点に注意する必要があるのでしょうか。当研究所としては、文書に含まれる様々な情報の相互関係を、文章を起こす前に明確にすることを提唱したいと思います。 情報の相互関係として想定しているのは、以下の4種類です。
もちろん上記の4種類の関係は情報の相互関係だけに着目したものであって、文書全体をわかりやすくするには他の要素もいろいろと介在してきます。
しかし、文書に盛り込む情報相互の関係を明確にしておくことで、情報の構造化やグルーピングといった文書の作成準備が容易になります。ちょっとした文書の作成だけでなく、大きな文書の構成案を考えるに際しても、このような分類のしかたは参考になるはずです。
文書に盛り込む(盛り込まねばならない)個々の情報の関係を明確にしたら、次にそれぞれの情報を構造化します。個々の情報が前述の4種類の関係で分類できても、文章と文章の関係や、それぞれも見出し間の関係などでは、多くの相互関係が複合したものとなります。例えば、マニュアルの操作説明文という情報のブロックには、説明文の流れ(順列)と操作/結果文(因果)という関係の種類が含まれています。多くの場合では、「〜するときは」というように、分岐の情報が含まれていることも多いでしょう。
したがって、個々の情報の相互関係を明確にしたあとは、相互関係で結びついた情報を構造化するという作業が必要となります。構造化というと難しいことのように聞こえますが、要するに関係のある情報をブロック化して、情報の親子関係を明確にするようなものです。
この辺の話はマニュアルの情報構造を例に取るとわかりやすいので、マニュアルを例として説明してみましょう。
これは簡略化した多少極端な例ですが、こうして情報の最小単位から大きな単位まで、情報の構造ができあがります。
さて、これらの4種類の関係で情報を分類できれば、あとはそれぞれの情報に適した見せかた/表現のしかたを工夫する必要があります。せっかく情報を構造化できても、その構造を読み手にうまく伝達できないようでは、効果は半減です。
それぞれの情報をうまく伝達するためには、次のような工夫が有効なのではないかと思います。
いかがでしたか? 細かい表現にこだわるのも結構ですが、やはりそれ以前に基本となる情報構造について意識する習慣を身につけるべきでしょう。
理解している人は理解しているのですが、実はこの辺の文書構造というテーマは、HTMLですでにおなじみなんですよね。OL要素は順列ですし、UL要素は並列を意味します。本来HTMLは文書構造を重視してテキストを記述するためのものなので、当然といえば当然なのですが。
また、実際問題として文書を一括して自動処理するような場面が増えてくると、情報の構造を重視した文書構成が重要になります。データベースパブリッシングやCMS(コンテンツマネジメントシステム)の現場で元データの記述方法の重要性が叫ばれていることと、問題の根は全く同じです。蓄積した文書(知識)を有効活用するのもナレッジ・マネジメントの一環ですから、今後はこうしたスキルが一般の文書作成にも求められるようになってくるのかもしれませんね。