ターゲットユーザーは誰だ?

1998年1月19日

今回のテーマは「ターゲットユーザーは誰だ?」です。

「マニュアルがわからない」という声を相変わらず聞きますが、これには日本語が破綻している以外にも、マニュアルを制作する側がマニュアルの読者のレベルを読み違っている(または何も考えていない)と言うことにも原因があると思います。

今回は、マニュアルを制作するにあたって、読者のレベルをどう考慮するのか、つまりマニュアルのターゲットユーザーをどう決定するかについて、考えていきたいと思います。

基本は、誰に? 何を? どうやって? です。

誰に読んでもらうのかを検討する

お約束ですが、これから制作しようとするマニュアルが、誰に向けてのマニュアルなのかを検討しなければなりません。
この段階では、「マニュアルの対象ユーザー=商品の企画意図、商品の対象ユーザー」となるのは仕方のないことです。
商品の企画担当者との制作前の意思の疎通に注意を払い、この商品自体の想定ユーザーと、実際にマニュアルを読むユーザー層を確認することが大事です。
この段階で企画担当者のいうことがおかしいようであれば、積極的に口を出すべきです。あとから「こんなはずではなかった」といってもどうしようもありません。

問題は、商品の訴求層と実際に買うユーザー層のレベルが離れすぎている場合です(パソコンなどが良い例です)が、すべての層を同時にケアすることは、理想論としてはともかく現実的には不可能でしょう。
この場合には、別売りという手段も含めて、レベル別にマニュアルを用意する手立てを検討する必要があるでしょう。いくら困難だとはいえ、そのツケは決してお客様に払わせてはならないことを忘れてはなりません。
コスト要因でだめだと言われれば、「ベストは尽くすがサポート費用は覚悟してください」というしかないですね。

すべてのユーザーを同時に満足させるマニュアルを作ることは、現実的に困難です。もう少し商品自体の使い勝手が良くなれば、何とかなりそうな気がするのですが...。

どの情報を提供するのかを検討する

誰に読んでもらうかを決定したら、その読者はマニュアルに何を期待しているのかを検討しなければなりません。つまり、どのような情報をユーザーに提供するかを検討する段階です。
「誰にどのような情報を提供するか」ということは、そのまま「どうやって情報を提供するか」に反映されます。

もっとも、ふつうのマニュアルは1冊で商品のすべての機能から、トラブルシューティング、安全のためのご注意までを説明しなければならないので、「どの情報」といわれてもピンと来ないかもしれません。
それでもどういう情報を提供するのかという視点は、常に忘れずにいる必要があると思います。
「どのような情報」はこの後に続く「どうやって」と密接に関わっているので、全体を綜合的に見る視点が必要だと思います。

どうやって情報を提供するのかを検討する

さて、前段階までは商品企画者の意見を重視する必要がありましたが、ここからはマニュアル制作者の経験や、1ユーザーとしての(自分の)実感も重要です。
つまり、マニュアル制作者の腕のみせどころというわけです。
かといって、ここまでの過程を軽視していては、腕を見せる前に沈没してしまいかねません。何事も基本からの積み重ねが大切です。
「誰に、何を」という段階でも、充分に腕を見せることはできるわけですから。

「誰にどういった情報を提供するか」までが同じでも、できの良いマニュアルと悪いマニュアルの違いはここにあります。
例をあげてみましょう。

  • 例1:Webページを作る初心者用ソフトウェア
    はじめて使うユーザーが、いきなり「そもそもインターネット上の...」なんて説明を読むでしょうか? いきなり「テーブルを使ってレイアウトする」なんて説明を読むでしょうか?
    普通は「このソフトウェアでできること」とか「さっそく作ってみよう」とかいうページを開きますよね。
    つまりこの場合、ユーザーはソフトウェアの構造、機能よりも、そのソフトウェアで何ができるのかという情報を求めていると考えられます。
    したがって、チュートリアルマニュアルを別冊で用意するか、導入部をマニュアルの最初に用意することで、ユーザーに満足してもらえるはずです。
  • 例2:Webページを管理するウェブマスター用ソフトウェア
    ウェブマスターは一般的にはエキスパートということになっています(笑)。
    最初から上級者用のソフトウェアを購入した時点で、ユーザーの求めている情報は「このソフトウェアが他のソフトウェアと異っている点や、制限の一覧」、「トラブルシューティング」といった、参照系の情報が主になると考えられます。
    つまりこの場合は、例1の場合とは情報の優先度が逆である、ということになります。
    したがって、システムの概略や概念、各機能の個別説明を主とし、検索性に優れた、リファレンスマニュアル色の強いマニュアルを用意することで、ユーザーに満足してもらえるはずです。

「実際の説明内容=説明によってユーザーに与える知識量」は同じでも、ユーザーにとって適切な説明のしかたがあるということが、ここでは重要です。
とかくマニュアルに関する文句に多い用語の使用法に関する問題も「どうやって」に含まれると思います。

ここまで見てきて、ようやくマスコミが問題としている、用語の使いかたがおかしいというレベルに達しました。つまり、わからない用語ばかり使うというのは、この段階でユーザー層の読み違いをしているからだと考えられます(それとも何も考えずに専門用語を使っているのかもしれませんが)。
用語の問題は使わなければよいというだけの話ではないので、こちらも合わせてご覧ください。

もっとも、これまでの段階を適切に検討してこなかった場合、いくら用語の使いかたが適切でもどうしようもありません。
要するに、実際のライティングに入る以前に、マニュアル全体の構想自体に問題があるならばどうしようもない、ということです。ここまで読まれた方には「わからない用語が使われていて云々」は、実際にはたいして重要ではない問題だということがご理解いただけたのではないかと思います。

当研究所の見たところ、わからないマニュアルの原因は、「どうやって」に問題があるマニュアルがほとんどです。
実際に読むユーザーにあった情報を、適切な方法で提供することこそ、ターゲットユーザーを考慮するということではないでしょうか。

いかがでしたか? なかなか微妙な問題も多いこのテーマですが、できるだけ基本的な線を押さえるように心がけました。

商品企画を立案した段階では考えてもみなかったユーザーが商品を購入し、クレームをつけてくるという話もよく聞きます。こういった場合、マニュアル担当者としては「そう言われても. . . 」というのが本音のところではないでしょうか。全体的なレベルを下げすぎることによって、上級ユーザーの理解が妨げられる面もでてくるので、本当に厄介です。

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