メディアによる改善圧力に期待する
研究発表の準備は進めているのですが、業務に忙殺されている関係でなかなか公開に至りません。お茶を濁すようで申し訳ありませんが、所長がtc-streetのメーリングリストにポストした内容を修正して公開したいと思います。テーマは「マスメディア上でマニュアルが批評されることの意味」です。
マニュアル制作者は自分でできる範囲でマニュアルを改善するための努力(構成立て、見出しのつけかた、見やすいレイアウト...その他)をいろいろしているという前提で、以下の文章をご覧ください。
マニュアルが改善されない裏には . . .
マニュアルを改善するためには、マニュアル制作者だけが頑張ってもどうしようもないことが多いのですが、その根源は「メーカーのマニュアルに対する態度」にあります。一言でいうならば、「マニュアルにもっとコストを払う必要がある」ことを各メーカーが自覚しない限り、マニュアルの改善には限界があるということです。
不況のせいもあるかと思いますが、ユーザーにわかりやすいマニュアルを提供するために必要なコストを、メーカーが負担しているとは思えません。
原則論で文句ばかり言ってもどうしようもないので、マニュアル制作者は仕事中にそれなりの圧力(というよりもお願い)をメーカー側にかける場合が多いと思います。
- 元の構成がひどいので、翻訳しても説明として機能しません。
(翻訳するだけでなく、構成や見せかたごと変更する必要があります)
- このページ数ではどうやっても説明できません。
(一定ページに無理に詰め込むのではなく、ページ数を増やすべきです)
- この構成ではユーザーにうまく情報を伝えられません。
(指定された構成では問題があるので、再考すべきです)
- その他
しかし、メーカーがそれを聞いてくれるとは限りませんので、マニュアル制作者としては、その制約の範囲内でベストを尽くすよう努力する他はありません。
ユーザーの言い分をメーカーに納得させるには、本来ユーザーからメーカーに圧力をかけるしかありません。ところが不便なマニュアルに慣れっこになっているせいか、現在のユーザーはメーカーに対して意思表示をせずに、最初からすぐに攻略本の類に走る傾向があるようです。 要するに、自分で自分の首を絞めている訳です。
メディアが頼りの現状
マニュアル制作者は、このような現状を基本的に肯定する訳ではありません。しかし、自分達の力だけでは巨大メーカーのマニュアルに対する態度は変えられない、という手詰まり感があることも確かです。
また、マニュアル制作者も生活がかかっているので、自分達の収益をまったく度外視して仕事をする訳にはいきません。かけられるコストなりの仕事で済まさなければならないことも多い、というのもまた現実なのです。
このような状況においては、メーカーに対して必要なコストを負担するよう主張できる力を持つのは、現実的に考えると新聞や雑誌などのマスメディアしかありません。Webサイトも活用のしかたによっては力を持ち得るかもしれませんが、一制作会社や一個人だけのWebサイトの力ではどうしようもないことはおわかりいただけるかと思います。
マニュアル制作者として他力本願は納得が行かないのですが、現状の力関係を考慮に入れると、メディアでこの問題を取り上げてもらうことが一番手っ取り早いということは否定できません。なぜなら、多くの人が(特に努力をしなくても)目にする機会が増え、この現象を問題であると捉える人が増えてくるであろうからです(もちろんマニュアルに関わるすべての人の自助努力は必要です)。
実名表記できるかどうか
しかし、マスメディアでマニュアルの問題が取り上げられるときでも、広告主への配慮なのかオフィシャルマニュアルの出版権が没収されてしまうのが心配なのかどうか知りませんが、具体的な製品名は決して明記されません。そればかりか「マニュアル一般の問題」ということでひとくくりにされてしまいます。
このような取りあげかたは、真摯にマニュアル改善に取り組んでいるメーカーやマニュアル制作に関係するすべての人に対する侮辱であるばかりでなく、批判の対象とされるべきメーカーに対してまったく力をおよぼさないという点で問題があります。
「マニュアル一般がわかりにくいだって? また何か言ってるよ。ウチは関係ないもんね」というように、こういうメーカーには自覚がないことが普通なのです。自覚があるならとっくに取り組みかたが変わっているはずです。
というわけで、マスメディアがマニュアルを記事の対象として取り上げるときは、ひどいマニュアルの製品名を実名明記するようお願いしたいところです。どの面を中心にマニュアルを批評(批判ではないですよ)すれば良いかわからないようであれば、マニュアルや認知科学の専門家に聞けば良いのです。
こうすることで、実際にマニュアルがひどいのはどこのどの製品かということがクリアになり、記事の持つ重みが直接そのメーカーに向けられます。たまたま一つの製品に関してだけであれば無視を決め込むかもしれませんが、このメーカーのマニュアルはいったいどういう態度で制作しているのだ、という問いかけをされれば、メーカー側としても何らかのアクションを起こさざるを得ません。
ここで起こされるアクションは、ユーザーにとって歓迎すべきものになるであろうことは間違いありません。
ここまでメディアによる改善圧力に期待してみましたが、どうせマスメディアではそんなことやらないでしょう。実名批判するような気骨のあるメディアは、マスの地位につけないのが悲しいところです。
それではメディアに期待するのはやめて、当研究所のWebサイトで「実名表記入りマニュアル批評企画」を開催しましょうか? メーカーに結果についてのコメントを求めることができればなお良いかもしれませんね。
この企画を熱烈に支持してくださるかた、企画に協力してくださるかたがいらっしゃいましたら、当研究所までご連絡ください。反響によっては実施を検討させていただきます。
こんなことすると依頼が減るかな . . . 。それとも口封じで増えるのかな?
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