情報のまとめかたについて考える
条件分岐のアリ地獄
たまたま同じような問題を続けて見る機会があったせいで気付いたのですが、どうも条件分岐をうまく扱えていない例が増えているようです。例えば、操作手順が1〜4まであって、途中でA、B、Cの条件で分岐して、それぞれの条件の中でさらに複数の手順やらご注意やらがあって、そのあとに大元の手順の5〜に戻って . . . みたいなものですね。
もちろん条件分岐の数や、それぞれの条件の内容の分量にもよるのですが、条件ごとに必要な説明や手順がそれなりの長さになったりしてしまうのは、かなり問題があります。酷いものになると、大元の操作中の条件分岐の説明だけで、数ページを費やすものもある始末です。つまり先ほどの例でいくと、手順4のあとに条件分岐の説明が数ページに渡ってだらだら続いて、そのあとにようやく手順5が出てくるという訳です。これでは、ユーザーは自分がいま何をしているのか?操作のどの部分にいるのか?を操作中に把握することが困難になってしまいます。操作目的よりも操作そのものを意識せざるを得ない状況が続くことは、決して好ましいこととはいえないでしょう。
条件分岐による説明が増えるのであれば、ユーザーが操作目的とするであろう条件分岐を見出し化するなどして、見出し(条件=操作目的)単位で情報を分割する必要が出てきます。あらかじめ見出し単位で分割しておくことで、操作説明が始まってからの混乱を予防できますし、構成をあらかじめ見渡せることで、必要な情報に最初から直接到達できる機会が増えることにもなります。製品の機能が増大するに従って条件分岐は増える一方なのですから、マニュアル制作者はこのように情報を適切に構造化する訓練を積まなければなりません。その場しのぎの条件分岐を積み重ねることは、ユーザーを条件分岐というアリ地獄に突き落としているだけということを自覚する必要があるでしょう。
もちろん各種の条件分岐による適切な構造化ということは、マニュアル制作だけの問題ではありません。特にこの種の問題の帰結である「ユーザーは自分がいま何をしているのか?操作のどの部分にいるのか?を操作中に把握することが困難になる」ということは、そのままWebサイト構築の世界でも通用する事例になりますよね。(2002.03.06)
安易なユーザー属性による分類は失敗のもと
ターゲットユーザーごとに情報を分類したいという場合に、安易に性別や年齢階層、職業などといった、いわゆるデモグラフィック特性による分類に頼ることが多くありませんか? しかし実のところ、教職員・学生向けに限定して販売されるソフトウェアのアカデミックパック製品のようなものを例外とすると、実はこの種の分類が有効に機能する場面は少ないのではないでしょうか。
こうした分類は、本来「〜したい」というユーザーのニーズや欲求をベースとして行われるべきです。確かに、それらの層を代表するようなステレオタイプのデモグラフィック特性(30歳の男性会社員など)を提示することで、人に対して説明しやすくなる場合もあるでしょう。しかし、分類された情報を不特定多数のユーザーが選ぶという場面を想像するならば、やはりデモグラフィック特性による分類には無理があるのです。
例えば、Aという製品または情報が欲しいというユーザーに、たまたまBという属性の人が比較的多いとしましょう。この理由だけを持って、Webサイト上でAに対するリンクを「Bの方へ」というタイトルで誘導しようとしてしまうと、それが代表的なステレオタイプを提示する意図であったとしても、B以外のユーザーを暗黙のうちに排除してしまうことにつながりかねません。「特定のデモグラフィック特性が、想定される欲求やニーズを持つユーザー層とほとんど完全に一致する」というよほどの自信(笑)でもない限り、Aに対する欲求を持つユーザー全体に対して訴求できる情報分類のタイトル(=ラベル)を用意するべきでしょう。
そういう意味で、Webサイトのトップページに「〜の方は」という、ニーズや欲求をベースとしないデモグラフィック分類をそのまま提示しているところ(例:SOHO事業者の方はこちら)を見ると、何だかなあと思ってしまいます。この辺りの基準選定については、現場レベルで理解が進んでいても、実際の決定権を持っているレベルではなかなか理解してもらえないケースが多いのではないかと想像していますが、早く状況が好転することを期待したいものです。
ところで朝日新聞の新土曜版の記事、「マニュアル不要」をうたってWebブラウザの「お気に入り」整理方法を載せていますが、その記事自体がマニュアルであるという自家撞着はいかにして解決なさるおつもりか。マニュアル批判は毎度のことではありますが、それにしても呆れて物も言えませんがな。(2002.04.08)
カスタマイズを言い訳にしない情報提供
保険会社のWebサイト、わかりにくいと思われたことはありませんか?
保険初心者にとっては、自社商品名だけ並べられても、具体的にどれを選べば良いのかさっぱりわかりません。CMや各種パンフでアピールした商品名を頼りに探すユーザーがいることは否定しませんが、「死亡時給付」、「掛け捨て」、「入院給付」など、ユーザーが保険に対して想起するキーワードから適当な保険商品をピックアップする機能がない場合がほとんどです。それにも増して不安になるのは、どれくらいの費用がかかるのかが全く見えてこない点です。
一人一人の条件に合わせたカスタマイズが基本のため、画一的な情報提供には意味がないという判断をしているのかもしれませんが、押しの強いセールス担当をいきなり相手にするよりも、できればWeb上で事前に各社の保険商品を調べておきたいというユーザーは多いのではないでしょうか。一般消費者を対象とするビジネスにおいて、カスタマイズにかこつけて費用情報をオープンにしないという体質には問題があると言わざるを得ないでしょう。この点では、住宅メーカーも同じような傾向が強いように見受けられます。
ユーザーに合わせたカスタマイズを前提とした製品やサービスでは、下手に金額をオープンにするとかえって誤解を招くことにつながるという側面があることは十分理解できます。しかし、大まかな目安となるようなラインすら見えないということになると、ユーザーとしては事前選定の手がかりすら得られず、不安になるばかりです。それにユーザーはすべての企業の営業担当と打ち合わせをするほど、時間に余裕があるわけではないのです。Webサイトは商品の概要説明と長所訴求に特化して、実際の受注獲得は営業担当に依存するという仕組みが一朝一夕に変わることはないでしょうが、この方法は最近のビジネスの流れから取り残されていることを自覚すべきです。Webサイトの持つ信用創造という機能を過小評価してはなりません。
これらの企業のWebサイトには、簡易シミュレーションなど、ユーザーにおおまかな費用情報を伝達する仕組みを用意するべきでしょう。自社商品の長所だけでなく、費用のアウトラインや制約条件をわかりやすく提示することで、ユーザーの信頼を勝ち得る方向に情報提供のスタンスが移って欲しいものです。当研究所も費用情報はオープンにしていないので他人事ではないという話もありますが、BtoB分野ですのでご容赦を(もちろんお問い合わせ頂ければ、想定コストと要求仕様の間で適切と思われる情報をまず提示させて頂いております)。(2002.05.14)
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