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情報大工のひとりごと

電子マニュアルをめぐるお話



電子マニュアル制作に求められるスキルとは?____見出し罫線____

先日の研究発表これでいいのか、マニュアル制作者に対して、マニュアル制作の実務に就かれている方から、次のようなコメントを頂きました。

私の部署でも今回触れられたような点が課題となってきています。中でも問題なのが、電子マニュアル制作の人材育成/キャリアプラン策定をどのように行えばよいか、ということです。このあたりの問題については、いかがお考えでしょうか?(叩き台となる具体案も頂いていたのですが、省略させていただきます)

部署としての育成システムを体系的に検討するということであれば、なかなか難しい問題ですね。当研究所としては、まず電子マニュアルを制作するためのスキルについて大雑把に分類して、それぞれの必要スキルに合わせた育成プロセスを用意するというのが適当なのではないかと思います。
例えば、以下のような分類はいかがでしょうか?

  • 電子マニュアルに対する基本理解:メディアの特性を生かして情報を切り分ける能力、使用フォーマットや配布/流通形態に対する基礎理解といった、電子マニュアル制作スキル以前に押さえておかなければならない基礎知識です。
  • オーサリング:実際にコンテンツを制作するために必要なスキルです。紙マニュアルでいうと、DTPソフトを使ってページアップデータを作成するスキルに相当し、制作に必要なソフトウェアの使用法などの習得も含みます。
    ただしスクリプト系に関しては、すべてに精通するよりも、それらを利用することで何ができるのかということを理解させるだけで十分ではないかと考えます。実際の制作担当者はガリガリ(笑)書けないと不都合があるでしょうが、必要な基本知識さえ押さえておけば外注することも可能になります。
  • ビジュアルデザイン:あくまで「見せる/魅せるテクニック」を中心にしたデザインという認識です。具体的には、ディスプレイ上での効果的な表現手法/技法の習得ということになりますが、これは次の項目との境界が比較的曖昧かもしれません。
  • インターフェースデザイン:見栄えではなく、構造/機能をデザイン(設計)するためのスキルです。マニュアル全体やそれぞれのページを、ユーザーインターフェースを考慮してデザインできるかどうか、というところがポイントとなります。ナビゲーション設計などが良い例ですね。

もちろんこれに加えて、紙マニュアル制作でも必要とされる、マニュアル制作の基本的なスキルが必要とされることは言うまでもありません。
しかし実際問題として、これらすべての領域を一人の人間がカバーする必要はないのではないかと思います。というよりもむしろ、一人がすべての領域をカバーすると期待するのは、現実的ではないでしょう。もちろんすべてをカバーできる人材がいればそれに越したことはありませんが、そのような人材がいることを想定したワークフローを構築しても、現実的には何の役に立たないでしょう。

従って、まず電子マニュアルに対する基礎理解だけはきっちりと仕込んだ上で、各人の興味と適性に合わせてそれぞれコアとなるスキルを学ばせる。その後、各自が選択したコアスキルをしっかり自分のものにする過程で、並行して周辺領域の基本(できの良し悪しを判断できる程度の審美眼)を学ばせる、というのが現実的な育成手段ではないかと考えますが、いかがでしょうか?
「電子マニュアル時代のマニュアル制作者に要求されるスキル/育成システムというのはどういうものか?」という問題はとても興味深いテーマですので、機会があれば研究発表で取り上げてみたいと考えています。 (1999.11.15)




電子ドキュメントとヘルプの違い____見出し罫線____

最近聞いた話ですが、パソコンのソフトウェアのヘルプに「画面イラストをどんどん入れてくれ」と要望してくるメーカーの担当者が結構いるということです。見識の低さに唖然とします。何を考えているんでしょうか? もちろん何も考えていないに違いないのでしょうが . . . 。

「操作文の結果を示すためにイラストや画面イラストを入れる」というのは紙のマニュアルではよく使われる手法ですが、電子マニュアルでは滅多に使われません。
何故でしょうか? ヘルプというのはソフトウェアを使いながら参照するためのものであり、そのために画面は必要最小限の大きさにとどめ、その中で情報をわかりやすく効果的に伝えるための工夫をしなければならないからです。操作結果を同じ画面で直接参照できるので、必要以上の結果文が不要であるという根拠もあります。
画面イラストによって、トピックを最後まで見るためにスクロールしなければならない回数が増える、画面イラストに阻まれて手順全体を見渡すことが困難になる、などの重大な問題が生じることにも注意を払う必要があります。

どうも画面イラストを多用してくれといってくる担当者は、電子メディア上のコンテンツに対する基本的な理解が欠落しているのかもしれません。
紙マニュアルであれば縮小して貼り込んでも十分に可読性を保つことができますが、画面上ではそうは行きません。ピクセルサイズを縮小してしまうと可読性が失われますし、原寸で使用するとヘルプのウィンドウサイズが破綻してしまいます。トリミングできる画面イラストであればまだ何とか対処のしようがありますが、そうでないものはお手上げです。破綻なくヘルプを見せるためには、ヘルプのウィンドウサイズを大きくするしかなくなりますが、今度は操作画面とヘルプを同時に見ながら作業することが不可能になります(ちなみにこうしたヘルプのことを、役立たずと呼びます)。
ひょっとするとメーカーの担当者は1600×1200ピクセルといった大画面で作業していることが多いため、単にヘルプウィンドウのサイズに無頓着なだけなのかもしれません。しかし現実問題として、800×600ピクセル(SVGA)程度の解像度においてもソフトウェアの操作画面を圧迫せずに使えるようでないと、ヘルプとしては役に立ちません。

ヘルプと電子ドキュメント一般は、電子コンテンツであることこそ同じですが、目的や想定される使用環境が全く異なります。確かに全画面表示を前提とした電子ドキュメントであれば、表現力を最大限に生かしたコンテンツ作りが可能でしょう。しかしそれは、操作しながら必要な情報を参照するというヘルプの目的とは、方向性の全く異なるものなのです。
一般的な電子ドキュメントのように表現力を重視したいのであるならば、ヘルプとは別に最初からPDFファイルを用意すべきです。根本的な問題として、画面イラストを入れないとわかりにくいような操作であるならば、そもそも最初から紙マニュアルで説明すべきことでしょう。「紙マニュアルを用意できないから電子マニュアルで」ということであれば、初めからヘルプだけでも簡単に操作できるように、ソフトウェアの操作仕様を入念に設計したり、ガイダンス機能を充実させるなどの方策を検討しておくべきです。
そうした基本的な努力/検討もすることなしにユーザーにすべてのツケを回す態度は、モノ作りに携わるメーカーとして最低の姿勢と言わざるを得ません。心当たりのあるかたの猛省を求めます。 (1999.11.29)




本格化するネットワーク利用マニュアル____見出し罫線____

最近発表された日本IBMのThinkPadX20ですが、プレスリリース中に気になる部分を見つけました。どうも紙マニュアルの大部分を電子マニュアルに移行して、かつネットワーク上のヘルプ情報ともリンクした情報提供を目指すようです(詳しくは製品情報ページの「気軽に操作できるオンライン・ヘルプシステム」の項目をご覧ください)。

そろそろどこかがやってくるのではないかと想像してはいたのですが、まずビジネス市場が対象となる製品から動き出したようですね。こういった情報提供手法の変化に関する話は、明後日に迫ったTCシンポジウム2000でも触れようと思っていたところなので、ナイスタイミングと言えるでしょう(笑)。
操作情報を含めた取扱情報がネットワーク経由で提供されるようになることは時間の問題とはいえ、先頭を切ることになった日本IBMがどういう思想で情報を展開しようとしているのかに、まずは注目してみたいと思います。

ただ残念なことに、このメーカーのマニュアルの品質は誉められたものではないという印象が拭えません(苦笑)。昔のThinkPadから最近のWorkPadに至るまで、マニュアルの品質問題は伝統的なものと見受けられます。情報区分や見出し表現がタスク中心(task-oriented)でない上に、日本語表現が硬すぎるという問題をどうにかしないと、かなり辛いレベルというのが現状でしょう。
何はともあれ、構成企画やライティングといった基本品質の問題によって、先進的な取り組みそれ自体にケチがつかないことを祈るばかりです。日経パソコンの最新のサポートランキングでは11社中4位とそれなりに良い評価を得ているようですので、品質が改善されていることを期待しましょう。 (2000.08.30)



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